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2014.11.18

母さんの流れ星

ゆうべは母さんが、いつも以上に「しし座流星群」を楽しみにしてて、夜の7時ごろまでに晩ごはんを済ませちゃって、周りの光源をカットして流星を観察しやすくするためのダンボールの筒も作って、あたしに「深夜0時になったら必ず起こしてね」って言って、トットとお布団に入っちゃった。で、あたしはと言えば、アジのヒラキをつまみながら、チビチビと晩酌をしつつ、ネットで全国の流星の様子をチェキしてた。

ザックリ言っちゃえば、そろそろ終わりを迎える「おうし座流星群」は、夜の9時ごろから観え始めて、場合によっては火球クラスのものがゆっくりと飛ぶ。一方、この日にピークを迎える「しし座流星群」のほうは、東の空に放射点の「しし座」が上ってくる深夜0時ごろから明け方まで、小さくて速い流星がシュンシュンと飛ぶ‥‥ハズだった。

これは、流星の入射角と方向の違いによるもので、「おうし座流星群」は、地球の回転と「同じ方向」に入射するため、分かりやすく言えば、「地球」という各駅停車に乗って走ってるあたしたちの横を、「おうし座流星群」という急行が追い越してくようなものだ。こっちも動いてるから、「おうし座流星群」は大きくゆっくりに観える。

でも、「しし座流星群」の場合は、あたしたちの乗ってる「地球」という各駅停車とは反対方向に入射する。だから、「急行」じゃなくて、相手もこっちと同じ「各駅停車」だったとしても、すれ違うのは一瞬だけで、ものすごく速く感じる。だから、今回の場合、放射点の近い2つの流星群が同時に観られるっていう条件だったけど、1つ1つの流星を良く観ていれば、それが「おうし座流星群」なのか「しし座流星群」なのかを判別することができた今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、あたしは、深夜までに何度か外を観たんだけど、東の空のちょっと南寄りにオリオンが横たわってて、オリオンの下にはシリウスが上って来てて、いかにも「冬の夜空」って感じで、空気も冷たくて気持ち良かった。でも、東の地平線あたりを10分ほど眺めてたんだけど、流星は1つも飛ばなかったので、流星観察的には「イマイチ」の予感がしてた。だけど、深夜0時を過ぎたトタンに「しし座の流星シャワー」ってこともアリエールなので、11時半を過ぎたあたりから、ポツポツと準備を始めた。

業務用の紙パックの赤ワインを空のワインボトルに移して、大きなお鍋にお水を張って、こぼれないようにお鍋の中にボトルをナナメに寝かせて、細火にかけて湯煎して、温かくなったら魔法瓶に移す。レモンを薄くスライスして、小さなタッパーに入れて、これで、キャンプ用のホーローのマグを用意すれば、レモンを浮かべたホットワインが楽しめる。

あとは、深夜なので、「お麩」を使った軽いオツマミを用意した。大きめのお麩の片面にニンニクを摩りつけて、ケチャップをちょこっと塗って、タマネギのスライスと小さく切ったトマトを乗せて、スライスチーズを千切って乗せて、オーブントースターで軽く焼いた「お麩のピザ」、最初にアルミホイルの上にお麩を20個くらい並べておいて、アルミホイルの周囲を持ち上げて一体化してからマトメて作ると、一度にたくさんできる。

それから、甘いものも欲しくなるので、何もつけずにトースターで軽く焼いたお麩にハチミツを塗った「お麩のラスク」も作った‥‥ってなワケで、時計の針が0時を回ったので、あたしは、母さんを起こしに行った。最初は外で観ようと思ったんだけど、縁側代わりに使ってる廊下から南東の空が観えて、向かって左手の高い空にオリオンが横たわってたので、廊下から観ることにした。


‥‥そんなワケで、母さんとあたしは、廊下のガラス戸を開けて、毛布にくるまりながら、オリオン座の左あたりをぼんやりと眺め始めた。流星を見逃さないように、廊下の電気を消して、廊下を隔てた居間の電気は豆球だけにして、あとは手元のノートPCの画面の灯りだけ。左上を観続けてるのは首が疲れるので、母さんもあたしもビミョ~にハスに腰掛けて、しばらくは無言で、ぼんやりと眺めてた。でも、なかなか飛ばない。

あたしは、サンダルをつっかけて庭に出て、廊下からは観えない範囲も観てみたんだけど、夜空は相変わらず静かなままだった。庭に出ると、それまで屋根の庇で隠れてたプロキオンが煌々と輝いてた。オリオン座の中の向かって左上の赤い星、ベテルギウスと、オリオン座のちょっと下のほうにある白くて明るい星、おおいぬ座のシリウス、そして、この、こいぬ座のプロキオンとで、お馴染みの「冬の大三角」だ。あたしは、母さんを庭に呼んで、一緒に「冬の大三角」を観た。

こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブで構成されてる「夏の大三角」は、ベガとアルタイルの距離が長いので、2辺が長くて1辺が短い「細長い三角形」なので、あたしはイマイチ好きじゃない。その上、日本的に言うと、こと座のベガは「織姫」で、わし座のアルタイルは「彦星」なので、一年に一度の織姫と彦星の逢瀬に、無関係なデネブが首を突っ込んで来た「三角関係」みたいにも思えて、野暮なこと、このうえない。

だから、あたしとしては、美しい正三角形である上に、大好きなオリオンも絡んでるし、「冬のダイヤモンド」とも部分的に重複してる「冬の大三角」が大好きなのだ‥‥ってなワケで、母さんとあたしは、肩から毛布にくるまったまま、10分くらい庭で「冬の大三角」を眺めてたんだけど、残念ながら、お目当ての流星は、まだ1つも飛ばない。もしかしたら、あたしの後ろに飛んだかも知れないけど、少なくとも、あたしの視界の中には飛ばなかった。

で、体も冷えて来たので、母さんとあたしは、いったん廊下に戻り、ホットワインで温まることにした。レモンスライスを浮かべたホットワインはとっても美味しくて、オツマミの「お麩のピザ」は冷えちゃってたけど、ワインが温かかったから美味しかった。


‥‥そんなワケで、今年の「しし座流星群」は、アベノミクスと同様に期待ハズレっぽいので、母さんとあたしは、夜空を眺めながら、ホットワインを飲みながら、「しりとり俳句」で遊び始めた。「しりとり俳句」には、いろんなルールのものがあるけど、今回は「前の句の下五をそのまま上五に持って来て、五七五でつなげて行く」という簡単なルールにした。あとは、「俳句」だから季語や定型などの基本的ルールを守ることと、その他に「なるべく夜空の景を読み込むこと」というオマケのルールも付け加えた‥‥ってなワケで、まずは、あたしからスタート!


 母さんの下駄からころと冬の星  きっこ


 冬の星琺瑯(ほうろう)満たす赤ワイン  母さん


 赤ワインひとつぶ飛んで平家星  きっこ

※一般には、オリオン座の左上の赤いベテルギウスを「平家星」、右下の白いリゲルを「源氏星」と呼んでいます。これはそれぞれの旗の色になぞらえたものですが、一説には「赤が源氏星、白が平家星」という逆説もあります。


 平家星おおいぬこいぬ従へて  母さん

※平家星(ベテルギウス)、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンで「冬の大三角」のことね。


 従へて不倫相手や神の留守  きっこ

※「冬の大三角」から「三角関係」って流れね。もちろん「神の留守」という季語は「夫の留守」「妻の留守」にカケてあります。


 神の留守ゆらり矢口の渡しかな  母さん

※もちろん「不倫=矢口」という陳腐な連想です。江戸川の「矢切の渡し」は歌にもなったので有名ですが、多摩川の「矢口の渡し」はあまり知られていません。ちなみに『釣りキチ三平』などでお馴染みの漫画家、矢口高雄さんは、デビュー当時に大田区の矢口渡に住んでいたので、このペンネームにしたと言われています。


‥‥そんなワケで、簡単な解説も添えながら「しりとり俳句」を紹介して来たワケだけど、「渡しかな」なんていう下五をもらっちゃったあたしは、このままじゃ詠みにくいから、「私かな」に変えて、「私かなそれともあなた冬銀河」って、これじゃあ芸がないなあ‥‥なんて考えてると、横で母さんが「あっ、飛んだ!」って言った。すぐに母さんが観てたほうへ顔を上げたけど、あたしは間に合わなかった。

母さんが言うには、オリオンのリゲルと、そのナナメ下のシリウスの間を、左下から右上に流れたそうだ。位置的にも、間違いなく「しし座流星群」だろう。流星は、続けて流れることも多いので、それからしばらくは、「しりとり俳句」は二の次にして、頭の隅で次の句を考えつつも、あたしは夜空を眺めることのほうに神経を集中した。でも、神経を集中しすぎると狭いエリアをピンポイントで凝視しちゃって目撃の確率が下がっちゃうから、赤瀬川原平さんの『老人力』を駆使して、広範囲をぼんやりと眺め続けた。でも、また長い沈黙がやって来た。


 私かな星が飛ばない原因は  きっこ

※俳句は「季戻り」を嫌うので、立冬が過ぎた今、1つ前の秋の季語である「流星」を使うのは野暮なのですが、ここはお遊びの「しりとり俳句」であることと、何よりも今夜の主役が「流星」なので、大目に見てください。


 原因はゼウスの浮気冬銀河  母さん

※また「不倫」に戻っちゃったけど、「しし座流星群」がなかなか観られないのは、あたしのせいじゃなくて、ゼウスが浮気してヘラクレスを作っちゃって、そのヘラクレスが「しし座」のライオンを退治しちゃったからだ、という、母さんなりのフォローなのです(笑)


そして、あたしが、次の句を考えて、頭の中で「冬銀河‥‥冬銀河‥‥冬銀河‥‥」って繰り返しながら夜空を眺めてたら、「冬銀河‥‥冬銀河‥‥冬」のとこで、今度は母さんと一緒に「あっ、飛んだ!」ってなったワケで、こんな句ができちゃった。


 冬銀河冬銀河冬「あっ飛んだ」  きっこ


さっき、母さんが観たという1つめの流星よりも高い位置、オリオンのベテルギウスの左側を下から上へ飛んだ。この廊下からは屋根の庇で隠れてて観えないけど、この先にはプロキオンがあるから、ベテルギウスとプロキオンの間、逆三角形に浮かんでる「冬の大三角」の真ん中を下から上へ飛んだことになる。


‥‥そんなワケで、ここまでの少ない情報からだけでも、マニアのあたし的には、「こりゃあ庭に出て、もう少し左側を観てたほうが確率が高いな」ってことがウスウスと感じられた。何しろ、「しし座流星群」の放射点の「しし座」は、もっと左にあるんだから。もちろん、ジャンジャン飛んでるような時は放射点なんか関係ないんだけど、これほど渋い日の場合は、できる限り放射点を中心に眺めてたほうが確率が高くなる。

だけど今夜は、「しし座流星群」を観ることよりも、母さんとの時間を大事にしたい。いつも一緒の母さんだけど、こんな時間に一緒にいることはメッタにないし、何よりも、母さんと肩を並べて同じ夜空を眺めてることが嬉しい。だから、あたしは、流星が観られる確率が低くなっても、母さんと並んで廊下に腰掛けていられる、この観測方法を続けることにした。

時計を見ると、深夜1時半を回ってる。母さんに眠くないかと聞いたら、仮眠したからぜんぜん眠くないと言う。それどころか、もうちょっとお酒を飲みたいと言う。ボトル1本ぶんのホットワインは、もうトックに飲み切っちゃってたんだけど、新たに赤ワインを湯煎するのは手間が掛かる。そこで、あたしは、焼酎のお湯割りを作ることにした。

母さんは、日本酒のほうが好きなんだけど、家には今、お燗をつけて美味しい日本酒がない。そこで、あたしは、ボトルに半分くらい残ってた大分の麦焼酎と陶器のサワーグラスと梅干しを用意して、電気ポットでお湯を沸かして、焼酎のお湯割りの梅干し入りを作ることにした。


‥‥そんなワケで、あたしがお酒の用意をして母さんのとこに戻ると、母さんが「今、飛んだのよ!」と言って夜空を指差した。あたしが「えっ?」って言って、母さんの指差したほうに目をやると、ちょうどその時、煌々と輝くシリウスのすぐ左横から真上に向かって、長い流星がひとすじ飛んだ今日この頃なのだ♪


 「あっ飛んだ」わが娘の声も冬銀河  母さん


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