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2014.11.26

千鳥格子な日々

11月22日にお誕生日を迎えて、あたしもまた1つ年を重ねちゃったワケだけど、毎年、この時期、つまり、自分のお誕生日くらいになると、着るものが秋冬物に変わる。暦の上では、8月8日ごろの立秋を過ぎたら秋なんだけど、今の新暦では、8月は真夏だ。そして、9月になっても暑い日が続くし、ヘタしたら10月になっても夏日があったりする。

もちろん、10月になれば肌寒い日もあるから、サスガに真夏と同じカッコはしてられないけど、それでも、完全に秋冬物に衣替えするというよりも、夏物の上に薄手のカーデを羽織ったりするくらいでちょうどいい。急に冷え込んだりしたら、温かいインナーを1枚プラスすればいいし、羽織りものとインナーとで調節できる。だから、ここ数年の秋の衣替えは、あたしは11月に入ってからやってる。

で、秋冬物に衣替えすると、あたしの場合、ドッと千鳥格子の柄が多くなる。あたしは昔から千鳥格子が大好きなので、セーターもスカートもブルゾンもコートも千鳥格子のものが多くて、流行に関係なく愛用してる。千鳥格子ってプリントもあるし、薄手の春夏物もあるけど、基本的にはウールの織物だから、必然的に秋冬物が多くなっちゃう今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


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‥‥そんなワケで、今さら千鳥格子の説明は必要ないと思うけど、念のために、あたしのスカートスーツの生地を写メしてアップしといた。ちなみに、これは、シャネルタイプのショート丈のノーカラーのスーツで、スカートは膝丈のタイトだ。もちろん、ポイントは「シャネルの」じゃなくて「シャネルタイプの」ってとこだ(笑)

ま、そんなことは置いといて、とにかく、あたしは千鳥格子が好きなんだけど、好きだからこそコダワリがある。それは、千鳥格子の大きさだ。千鳥格子は、基本的には「黒×白」で、あたしは好きだから「こげ茶×白」とか「紺×白」とか「紫×ベージュ」とかも持ってるけど、やっぱり「黒×白」が一番好きで、数も多い。ただし、あまりにも小さすぎる柄とあまりにも大きすぎる柄はNGなのだ。小さすぎる柄は遠目に見ると単なるグレーに見えちゃうし、大きすぎる柄には千鳥格子の持つクラシカルでエレガントな雰囲気がないからだ。

でも、ちょうどいい大きさの千鳥格子なら、どんなものにも合わせられる。たとえば、さっきのシャネルタイプのスーツなら、上下をそろえて着るだけじゃなくて、ボトムスを黒のタイトスカートにすると落ち着きが出るし、モノトーンだから赤やグリーンなどのハッキリした色モノにも合わせられるし、デニムパンツを合わせればカジュアルに着られる。逆に、ボトムスだけ千鳥格子のタイトスカートにして、トップスをいろいろと組み合わせることもできる。


‥‥そんなワケで、あたしの大好きな千鳥格子だけど、これは、もちろん日本での呼び方で、本場のイギリスでは「ハウンド・トゥ―ス」と呼ばれてる。「ハウンド」は「猟犬」、「トゥース」は「歯」、つまり、「猟犬の牙」って意味だ。他にも「ドッグ・トゥース」とも呼ばれてるけど、ようするに、あのギザギザの模様が「犬の歯」みたいに見えるってワケだ。日本だと、たくさんの鳥が連なって飛んでるみたいに見えることから「千鳥格子」と呼んでるけど、洋の東西でずいぶん感覚が違うんだね。

他には、たとえば日本の「杉綾織(すぎあやおり)」、あの、V字に細かい線が並んでる柄だけど、あれを西洋では「ヘリンボーン」と呼んでる。日本でも、今は「杉綾織」と言うよりも「ヘリンボーン」と言ったほうが伝わるかもしれないけど、これって、直訳すると「ニシンの骨」だ。そう言われてみれば、見るからにニシンの骨みたいな柄だけど、そこを杉の葉にたとえるとこが日本ならではの美意識ってワケで、いくら似てても「猟犬の牙」だの「ニシンの骨」だのと言わないとこが美しい。

で、さっき「本場のイギリスでは」って書いたけど、この千鳥格子が生まれたのは、イギリスなのだ‥‥って言うか、正確に言えば、スコットランドだ。スコットランドと言えば、バグパイプの人とかが着てるスカート状の民族衣装のキルトとか、ベイ・シティ・ローラーズの衣装とかでお馴染みのタータン・チェックが有名だけど、あたしの好きな千鳥格子、つまり、ハウンド・トゥ―スも、このタータン・チェックと同じルーツなのだ。

まだ、スコットランドがイングランドと敵対してた16世紀ごろ、スコットランの高地のハイランド地方に住むケルト系の人たちは、血縁関係を重要視する「クランシップ(氏族制度)」を取り入れてた。普通の「ファミリー(一族)」だけじゃなくて、同じ血縁同士を「クラン(氏族)」として団結してたのだ。日本でも田舎の村とかに行くと、20戸のうち15戸に同じ名字の表札が掛かってたりすることがあるけど、同じ名字の家の人たちは1つの「ファミリー」になるワケで、隣りの村や、その隣りの村の、名字は違っても共通の祖先を持つ大きなグループが「クラン」になる。

で、このハイランド地方の人たちが、自分たちの「クラン」や「ファミリー」を識別するために、タータン・チェックを使ってたのだ。たとえば、ハイランド地方に住むAというクランは赤を基調としたタータン、Bというクランは緑を基調としたタータンの服やストールを身に付ける。そして、Aのクランの中でも、aというファミリーは赤の基調に黄色のタータン、bというファミリーは赤の基調に白のタータン、cというファミリーは赤の基調に黒のタータン‥‥というように区別してた。もちろん、クランはAとBの2つだけじゃないから、色の違いだけじゃなくて、チェックの幅や配列などのデザインにも、それぞれのクラン独自の違いがあった。

そして、同じクランやファミリーでも、TPOによって‥‥って、ものすごく久しぶりに「TPO」なんて言葉を使っちゃったけど、TPOによって複数のタータンを使い分けてた。ふだんは基本的なタータンだけど、正装する場合はドレス・タータン、喪に服す場合はモーニング・タータン、狩猟に行く場合はハンティング・タータン‥‥ってふうに使い分けてた。国も時代も違う今のあたしたちだって、友人の結婚式や親族お葬式、会社の面接や休日のゴルフなど、それぞれ目的に合った服装をして行くのは当然のことだけど、当時のスコットランドのハイランド地方の人たちは、これと同じことをタータンでやってたワケだ。

ただし、身分によって使える色の数が決められてた。王族は7色も使えるけど、普通の貴族は5色まで、一族の長は3色、農民は1色ってふうになってた。だから、農民は苦労したと思う。だって、1色しか使えないとなると、チェックの幅や間隔の違いだけで変化を出さないとダメだからだ‥‥ってなワケで、もともとは、日本で言えば「家紋」みたいな感じで使われてたのが、このタータン・チェックだったのだ。

ちなみに、タータン・チェックの「タータン」というのは、フランスの古語で「麻とウールの織物」という意味の「テリターナ(teritana)」が語源だとされてる。だから、これは「猟犬の牙」みたいに見た目から付けられた呼び名じゃないんだけど、スコットランドの高地であるハイランド地方の人たちがタータン・チェックを識別のために使ってたのに対して、平地であるローランド地方の人たちが使い始めたのが「猟犬の牙」、そう、あたしの好きな千鳥格子、ハウンド・トゥースだったのだ。

当時は、もちろん、今みたいに科学的な繊維や染料なんてなかったから、麻やウールなどの糸を、植物などを原料にした自然の染料で染めて、それを機織機でパタパタと織って、それぞれのクランやファミリーのタータン・チェックやハウンド・トゥースを作ってたワケだ。もう、想像しただけでも気が遠くなりそうな大変な作業だ。


‥‥そんなワケで、今でこそ世界中の人たちが、タータン・チェックのシャツでもハウンド・トゥースのスカートでも自由に着てるけど、もともとは身に付けていい人といけない人が決まってたワケだ。日本でも、その昔は、貴族の位によって身に付けていい色が決められてて、紫は最も位の高い人しか身に付けることが許されなかった。これは、タータン・チェックやハウンド・トゥースも同じで、紫は王族しか使うことが許されなかった。

日本でもスコットランドでも、自然の染料しかなかった時代だから、紫草(むらさき)の根の「紫根(しこん)」とか、紫の液を出す「紫貝」など、染料に貴重な原料を必要とする色である紫は、一番偉い人にしか許されなかったのだ。だから、「紫×ベージュ」の千鳥格子のセーターを着てるあたしなんて、時代が数百年ほど前だったとしたら、日本的にもスコットランド的にもアウトだったワケだ(笑)

ちなみに、「紫根」は、染料としてだけじゃなくて、漢方薬としても貴重なもので、殺菌作用があるため、傷を治したり炎症を抑えたりするのに使われてた。そのため、江戸時代になると、病人は「紫根」で染めた紫の鉢巻を頭に巻く「病鉢巻(やまいはちまき)」という習慣が生まれた。あたしは、ずっと前に「サクラ大戦」の神崎すみれちゃんを主役にした「スミレ大戦」というパロディーを書いてたけど、あのブログの中で、この「紫根」や「病鉢巻」について詳しく取り上げてるので、興味のある人はコチラをどうぞ♪


‥‥そんなワケで、あたしの好きな千鳥格子に話をクルリンパと戻すけど、もともとはスコットランドのローランド地方の人たちの「家紋」的な柄だった千鳥格子が、いつごろ日本に伝わって来たのか?‥‥って言うと、戦国時代から安土桃山時代にかけての1500年代に活躍した茶人の千利休も、茶器を入れる袋、仕覆(しふく)の中に、千鳥格子の柄のものも愛用してた。つまり、スコットランドで「家紋」的に使われてた時代に、すでに世界に広まりつつあって、こんな極東の島国にも伝わって来てたのだ。

ちなみに、利休が愛用してた仕覆は、東南アジアで織られたものが日本に渡って来たと言われてて、驚いたことに現存してる。でも、この仕覆の柄は、「千鳥格子」じゃなくて「利休間道(りきゅうかんとう)」と呼ばれてる。「間道」というのは格子のことで、他の格子柄も「ナントカ間道」と呼ばれてるんだけど、利休の名が付くぐらいだから、当時は、利休くらいしか持っていない珍しいものだったんだろう。

現存する実物は、サスガに500年も経ってるから、もともとは「紺×白」の千鳥格子だったものが、紺の部分が変色してしまい、白の部分が黄ばんでしまい、全体的に萌黄色っぽくなっている。でも、それがまた風合いになってて、より「侘び」と「寂び」を感じさせてくれる。興味のある人は、「利休間道」で画像検索すれば、実物やレプリカを見ることができると思う。


‥‥そんなワケで、歴史あるドッグ・トゥースやタータン・チェックと同じくらいに日本でお馴染みなのがギンガム・チェックだけど、他にも、マドラス・チェック、ブロック・チェック、バスケット・チェック、グレン・チェック、タッタ・ソール、ウインド・ペーン‥‥って、チェックの種類はたくさんある。そして、あたしの好きな千鳥格子、ハウンド・トゥースに似てるのが、シェパード・チェックとガンクラブ・チェックだ。

シェパード・チェックのシェパードは「牧羊犬」のことで、スコットランドの羊飼いが使ってた柄なので、この名前で呼ばれてる。「シェパード・トゥース」なら「牧羊犬の牙」だけど、ここは普通に「シェパード・チェック」なので、柄が犬の歯に似てるということじゃなくて、単に「羊飼いが使ってたチェック」という意味だろう。日本名は「小弁慶」と呼ばれてる柄で、中にはハウンド・トゥースと見分けが難しいくらい似てるものもある。

そして、ガンクラブ・チェックは、イギリスの狩猟クラブが使ってた柄で、これは、柄としてはハウンド・トゥースと同じだ。ただし、色が3色使いになってる。ハウンド・トゥースは「黒×白」に代表される2色だけど、ガンクラブ・チェックは、このハウンド・トゥースの黒に当たる部分が、黒と赤とか、赤と緑とかの2色の交互模様になってる。だから、ザックリ言えば「派手なハウンド・トゥース」って感じで、日本名は「二重弁慶格子」だ。


‥‥そんなワケで、古今東西、いろんなチェックがあり、それぞれに発祥や歴史があるワケだけど、やっぱりあたしは「黒×白」のベーシックな千鳥格子が大好きなので、今年の冬も、この柄を取り入れたファッションを楽しもうと思ってる。たとえば、千鳥格子のウールの膝丈のタイトスカートで、スカートの裾が10センチくらい見える短めの丈の真っ赤なAラインのコートを着て、スカートと同じ千鳥格子のマフラーを巻いて、レッドソールの黒のエナメルのルブタンのピンヒール‥‥って、これはあたしのココイチの冬のパターンなんだけど、クリスマスシーズンを外さないと、街を歩いてるとサンタさんのコスプレの店員さんとかとナニゲにかぶっちゃう今日この頃なのだ♪(笑)


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