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2015.04.20

2015年、焼売の旅

昭和40年代後半に生まれたあたしは、生まれた時にはPCも携帯電話もなかったから、何か調べたいことがあると、学校や地域の図書館に行き、いろんな本を調べたり、親や先生などの「人生の先輩」に聞くしかなかった。たとえば、分からない漢字が1文字、分からない英単語が1つあるだけでも、いちいち辞書を引いて調べるしかなかった。

でも、今の平成生まれの若い人たちは、生まれた時から身の周りにPCがあるし、インターネットに接続できる携帯電話があったから、たいていのことならワンタッチで調べることができた。漢字なんか書けなくても、ひらがなで入力すれば自動的に漢字に変換できる。英語どころか、フランス語だってアラビア語だって、グーグル先生が一瞬で自動翻訳してくれる。あたしの時代とは雲泥の差だ。

だけど、こういうのって、ホントに利点だけなんだろうか。「便利」を手に入れたことによって、何かを失ってるんじゃないだろうか。たとえば、いつでもポケットやバッグからスマホを取り出してピピピッと指でなぞるだけで、何でも出てくると思ってる安心感から、自然と「暗記する」という努力をおこたることになり、結果、暗記力が低下してるんじゃないだろうか。

あたしの若いころは、自分の自宅の電話番号はもちろんのこと、仲のいいお友達や頻繁に連絡する仕事先などの電話番号は、すべて暗記していた。いつも肌身離さずに持ち歩いていた電話帳にもシッカリと書いていたけど、たいていの電話番号は暗記していた。でも、今の若い人たちの中には、仲のいいお友達や自分の職場の電話番号だけでなく、自分のスマホの電話番号すら暗記していない人もいる。

ようするに、自分のスマホに登録さえしていれば、誰にでもワンタッチで電話することができるから、相手の電話番号を暗記する必要がないワケだ。つーか、あたしだって暗記したくてしてたワケじゃない。あたしの時代にはワンタッチで電話できる機能なんてなかったから、毎回、数字のボタンを1つずつ押して電話を掛けるしか方法がなくて、そんなことを何度も繰り返してるうちに、自然と覚えちゃっただけだ。

だけど、今の若い人たちの中には、誰かに電話番号を聞かれると、「ちょっと待って」と言って、自分のスマホの「所有者情報」をひらき、そこに表示された11ケタの番号を読み上げる人がいる。自分のスマホが水没してデータがパーになると、真っ青になってオロオロする人もいる。信じられないことだけど、今はこんな人がたくさんいるのだ。今どきの若い人たちにしてみれば当たり前のことなのかもしれないけど、PCも携帯電話もなかった時代に生まれたあたしにしてみれば、何で自分の電話番号や自分の職場の電話番号も覚えていないのか理解できない今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、あたしは別に、便利になった今の世の中を否定してるワケじゃないし、それどころか、今の若い人たちとは違って「不便だった時代」を体験して来たぶん、今の若い人たちよりも今の便利な世の中に感謝している。ただし、頭から「便利」を受け入れているワケじゃなくて、常に一抹の不安を抱きながら、その上で、「便利」を受け入れているのだ。

何日か前のこと、あたしは、ふと思った。「シューマイ」って、蒸して作るのに、何で「焼売」って書くんだろうって。「チャーシュー」の場合なら、最初から最後まで茹でるだけの作り方もあるけど、最初にタコ糸で縛った豚肉のカタマリをフライパンとかで焼き、それから煮るっていう作り方もあるから、漢字で「叉焼」って書くのは不思議じゃないし、日本語で「焼き豚」って言うのも納得できる。でも、「シューマイ」の場合は、「焼く」なんて過程はいっさいない。生のシューマイを油で揚げる「揚げシューマイ」はあるけど、フライパンや網で焼くシューマイなんて聞いたことがない。

それなのに、ああそれなのに、それなのに‥‥って、久しぶりに五七五の俳句調で嘆いちゃうけど、何で蒸して作ってるのに「焼売」なんだ!‥‥ってなワケで、せっかく世の中が便利になったんだから、あたしはすぐにPCを起動させてインターネットで調べてみた。そしたら、すぐにこんな文章がヒットした。


「中国語の『焼』という漢字は『強く加熱する』という意味なので、日本語とは意味が違って『煮る』や『蒸す』なども『焼』という漢字で表記することがあります」


ほほう、つまり、日本では「手紙」と言えば「レター」のことだけど、中国で「手紙」と言うと「トイレットペーパー」のことになる‥‥ってのと同じで、日本と中国とで、同じ漢字でも意味が違うってことなのね。あ~スッキリした!‥‥って、たいていの人は、ここで納得しちゃうだろう。中には、次の日に学校や職場へ行った時、お友達や同僚に向かって「シューマイって蒸して作るのに、何で『焼売』って書くか知ってる?」なんて、ドヤ顔で話し始める人もいるハズだ。

だけど、あたしは、インターネットの恐さを知っている。大学生の多くがレポートや卒論を書く時に参考にしたり丸写ししているという、あのウィキペディアだって、事実誤認や悪意のあるデマが数多く書き込まれていて、数年前の調査によると「ウィキペディアの内容の信頼度は約60%」と言われているのだ。事実、あたし自身も、これまでにウィキペディアに書き込まれていた嘘やデマを数えきれないほど見つけている。


‥‥そんなワケで、あたしは、「焼売」について、さらにインターネットで調べてみた。そしたら、今度はこんな記述が見つかった。


「中国から日本に伝来した『シューマイ』は、中国南部では日本と同じく『焼売』と表記しているが、中国北部では『焼麦』と表記している」


それで、あたしは、次に「焼麦」という表記で検索してみた。そしたら、佐賀県のJR九州の「鳥栖駅」を発祥とする中央軒の「焼麦弁当」という駅弁がヒットした。あたしは東京生まれ東京育ちなので、シューマイと言えば横浜の崎陽軒だけど、西日本では中央軒こそがシューマイの代表で、駅弁業界では「東の崎陽軒、西の中央軒」と呼ばれているそうだ。そして、中央軒の「焼麦弁当」は、現在も売られている人気の駅弁で、製造元のサイトを見てみたら、「焼麦」についてのウンチクがたくさん紹介されていた。その一部を引用して紹介させてもらう。


「中国では、焼(shao)は火が燃えることを意味し、麦(mai)は文字どおり麦で、小麦粉の意に通じます。つまり焼麦(shaomai)とは麦の粉で包んで加熱したものという意味です。日本でもすっかり定着したシウマイは、中国でもほぼ全国的に食される人気のメニューのひとつです。特に広東地方では、飲茶にかかせない点心の代表格として親しまれ、ひと□で食べられる小ぶりで薄い皮のものが良いとされています。中央軒の焼麦は、長崎在住の中国人に教えを乞い、この東風のあっさりとした味を基本に中央軒独自のものに仕上げました。中央軒は、明治25年鳥栖駅開設とともに駅売り弁当で創業。それ以後、鉄道の発展とともに歩み今日に至っています。」
http://www.tosucci.or.jp/kigyou/chuohken/syaomai-pac.htm


‥‥そんなワケで、ここまでに分かったことを整理してみると、「シューマイ」はもともと「小麦粉の皮で包んだものを加熱した」という意味から「焼麦」と表記されていて、それが地域によっては「焼売」と表記されるようになり、日本には両方の表記が伝わって来た‥‥ってことになる。でも、これで納得するのは、まだ早い。せっかくここまで調べたんだから、もっと徹底的に調べなきゃ気が済まない。30年前だったら、こんなことのために何度も図書館に通うのなんてマッピラゴメンだけど、今は自宅に居ながらにして、PCのエンターキーをポンと叩くだけで調べられるのだ。

で、さらにディープに調べてみたら、ナナナナナント!ここまでの流れが怪しくなってくるような資料が見つかってしまった!それは、1998年に刊行された『中国料理辞典(下)技術・文化篇』 (同朋舎)によるもので、そこには、こう書かれていたのだ!


【シュウマイ/焼売/乾蒸/焼賣】
シュウマイは地方によっては「焼麦(シャオマイ)」とも書き、病害を受けてまっ黒になった麦の穂を伝染を防ぐために焼いた、その形に似ているところからついた名称。


オーマイガー!タイトルのとこに「焼売」と書いてあって、本文のほうに「地方によっては焼麦とも書き」って書いてあるってことは、あたしの導き出した「もともと焼麦と表記していたものが地域によっては焼売と表記されるようになった」っていう仮説が根底からくつがえっちゃったじゃん!つーか、ちゃんと「蒸」という漢字を使った「乾蒸」なんていう第三の表記まで登場しちゃったし、それどころか、「つまり焼麦(shaomai)とは麦の粉で包んで加熱したものという意味です」っていう、日本の老舗である中央軒さんの説まで否定されちゃったじゃん!

この『中国料理辞典(下)技術・文化篇』の記述がホントであれば、「シューマイ」を「焼売」とか「焼麦」とか表記する時の「焼」という漢字は、「強く加熱する」という調理方法から生まれたものではなく、病害の麦の穂を実際に火で「焼いた」という事実から生まれたものだということになる。そして、それを裏付けているのが、「乾蒸」という新たな表記なのだ。最初に書いたように、「煮る」ことも「蒸す」こともすべて「焼」という漢字で表記するのなら、この「蒸」という漢字を使った表記は存在理由を失ってしまうからだ。


‥‥そんなワケで、ここまで来たら、もはや後戻りはできない。さらにディープに調べ尽くして、真実を見つけるしかない。あたしは、意地になって調べ続けた。もちろん、こんなアホなことができるのも、インターネットという現代の便利な道具があるからで、調べる手段が図書館しかなかったら、あたしはとっくに放り出して、「これでおシューマイ!」なんてオヤジギャグでお茶を濁していただろう。

で、意地になったあたしは、これまでのように信頼度の高いソースだけでなく、個人のブログや掲示板などまでクマなくチェキしてみた。そしたら、10年以上前に運営を休止した「おしえてねドットコム!」という個人サイトのログの中に、シューマイの発祥についての質問と、それに対する回答が見つかった。その回答者は、シューマイの起源を調べるために、実際に横浜の崎陽軒に電話をして質問してみたらしい。


「シューマイの事はやっぱり「崎陽軒」に聞いてみました。その回答です。 ご質問の件ですが、以前当社の中国料理人曽総料理長にこのような事を聞いたことがあります。『昔、中国では料理をした後の材料の残りを(例えば野菜の切れ端とか、肉の残りとか、とにかく何でも)棄ててしまうのはもったいないので、細かくして丸めて焼いたのがシューマイの起源なんだよ。』その後、料理をいっぺんに大量に調理するには、大きな蒸し鍋で蒸し上げるのが一番早いので、現在のようになったようです。これが正解という確信はないですが、私は「なるほど、だから焼売と書いてシューマイか」となっとくさせる説明だと思いました。 ご参考程度に、、、。
http://homepage2.nifty.com/osiete/s544.htm


またまた新説が登場しちゃった。この説によれば、シューマイの「焼」という漢字は、実際に焼いて調理していたことが起源で、それが時代とともに量産するようになり、調理方法が「焼く」から「蒸す」に変わった‥‥ってことになる。そしたら、「中国では『煮る』にしても『蒸す』にしても強く加熱することを『焼』と表記する」という説も消えちゃうし、「病害の麦の穂を焼いた形に似ているから」という説も消えちゃう。

ここまでの複数の説のうち、あたし的に最も信憑性が高いと感じているのは、「病害の麦の穂を焼いた形に似ているから」という説だ。何故なら、その原典が中国料理について解説している専門書であり、「乾蒸」という第三の表記の存在とも合致するからだ。だけど、60年も前の昭和31年から「焼麦」を作って販売してきた中央軒の説も間違いだとは思えないし、さらには、実際に横浜の崎陽軒で調理を担当していた中国人の総料理長の説明にも重みとバックボーンを感じる。


‥‥そんなワケで、あたしは、他にも山のようなソースに当たってみたんだけど、残念ながら「これが真実だ」という結論を探し出すことはできなかった。鼻息を荒くして「意地になった」なんて言った手前、この結果は自分でも情けないんだけど、こうしたものには、たいてい複数の説があり、その中に「有力な説」と「怪しい説」はあっても、なかなか「これが真実だ」という結論には至らないことがほとんどだ。だけど、せっかく手に入れたインターネットという便利な道具を使って、ここまで徹底的に調べてみれば、最初にヒットした情報だけを鵜呑みにして翌日に誰かにドヤ顔で話すことが、どれほど危険で恥ずかしいことなのか、それだけは分かってもらえたと思う今日この頃なのだ。


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2015.04.18

3つの欲

あたしの本職は「競馬」‥‥じゃなくて、「ネットの内職」‥‥じゃなくて、一応は「ヘアメーク」なんだけど、東日本大震災以降は、あたしがメインにしてた「商業広告」のお仕事なんてぜんぜんできないし、「成人式のヘアメーク」すらできない状況が続いてて、タマに知り合いの紹介とかで美容師のバイトをする程度だった。でも、去年の秋ごろから生活も落ち着いて来たので、単発で本来のお仕事を受けるようにし始め、ジョジョに奇妙に本職の本数が増えて来た。

とは言っても、メインは「ブライダル」で、ようするに結婚式の新婦さんのヘアメークなんだけど、「ブライダル」に関しては、それなりに実績もあるし、かれこれ20年もやって来てるので、オリジナルのパターンもたくさん持ってる。もちろん、東日本大震災より前に契約してた東京のホテルの式場などと比べたらギャラは雲泥の差だけど、それでも本職で収入が得られることは何よりも嬉しい。

で、かれこれ20年も「ブライダル」の現場に関わって来たあたしは、一般の人よりは結婚式の場数を踏んでる。「ブライダル」のヘアメークは、新婦さんのヘアメークを作ったら終わりってワケじゃなくて、お色直しや化粧直しなどのために、式が終わるまで常に控えてなきゃならないから、結局、あたしとは無関係の男女の結婚式の様子を、陰からすべて見守ってることになる今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、これまでに一度も誰かの結婚式に出席したことがない人って少ないと思うけど、逆に、あたしみたいにブライダル関係のお仕事をしてないのに、50回も100回も結婚式に出席したことがある人もメッタにいないと思う。年齢にもよるけど、あたしと同じアラフォーなら、友人や同僚などの結婚式に出席した回数は、平均で約20回と言われてる。

あたしも、自分の友人や同僚の結婚式なら、それくらいの回数だけど、お仕事として結婚式の現場に居合わせた回数になると、数百回になる。もちろん、出席者じゃないから、テーブル席についてお式の一部始終を観てるワケじゃないけど、隣りの控室でスタンバッてるから、お式の音声や音楽はすべて筒抜けだ。

だから、あたしは、新郎や新婦の友人や関係者のスピーチの時間になり、新郎の会社の上司とかが「3つの袋」の話を始めると、「ああ~」って気分になる。「3つの坂」の話も、「50×50」の話も、耳にタコができるほど聞かされてるので、新婦の同僚の女子たちによる「てんとう虫のサンバ」と同じくらいウンザリする。

ちなみに、この「3つの袋」の話というのは、あたしが生まれる前から結婚式のスピーチの定番なので、今ではいろんなバージョンがある。もともとは「給料袋」「堪忍袋」「お袋」の3つで、結婚したらダンナさんは一生懸命に働いて「給料袋」を持って帰って来ることが大切だけど、時には自分が悪くないと思っても怒らずに我慢する「堪忍袋」も大切で‥‥と続き、最後に「お袋」を挙げて親孝行の大切さをアピールすると、その場に出席している新郎と新婦のお母さんが涙ぐむ‥‥っていうお約束のアレだ。

そして、この半世紀の間に、この定番のスピーチは形を変え、「胃袋」なんてのがプラスされるようになった。ようするに、奥さんは美味しい手料理でダンナさんの「胃袋」を掴むことが大切だって流れで、もともとの3つの袋を1つ減らして「胃袋」と入れ替えるパターンもあるし、もともとの3つの袋を説明したあとで、「もう1つ、4つめの大切な袋があるのです」なんて言って「胃袋」を持ち出すパターンもある。

さらには、「金玉袋」を織り込むパターンもある。もちろん、これは、気心の知れた仲間内だけのお式に限られるけど、3つの袋の3番目に織り込むにしても、3つの袋を説明したあとに4つめとして登場させるにしても、ようするに「オチ」ってワケだ。仮にも結婚式としいうおめでたい席で、スピーチをしていた男性の口から、突然、「金玉袋」などという単語が飛び出すワケだから、初めて聞いた人たちはみんなギョッとする。

でも、そのすぐあとに、「新郎の何々君、新婦の何々さん、この大切な4つめの袋を使って、ぜひ子宝に恵まれますように!」なんてふうにシメれば、会場は拍手喝采になる。特に下ネタが好きなオジサンたちは、自分が呼ばれた次の結婚式で、このフレーズを使うようになる。そして、この悪しき日本の伝統芸は、どんどん広がって行ったのだ。


‥‥そんなワケで、「3つの坂」というのは、小泉純一郎の国会答弁でもお馴染みだけど、「人生には3つの坂がある。上り坂、下り坂、そして、まさかだ」というもの。でも、「上り坂」って上から見たら「下り坂」なんだから、「上り坂」と「下り坂」は同じ坂なんだよね。ま、別にいいけど。

それから、「50×50」の話というのは、これもあたしはウンザリしちゃうんだけど、人生の教訓めいた理屈をドヤ顔で語りたいオッサンが多用するスピーチだ。ザックリ言うと、「50×50は2500になる。これを夫婦に喩えると、ダンナさんと奥さんが50ずつ努力して、2500の愛情を生み出している状態だ。でも、これが49×51になると2499になり、48×52になると2496になってしまう。つまり、2人の合計は同じ100でも、その努力がどちらかに一方に偏り始めると、2人の生み出す愛情はどんどん小さくなってしまうのだ」っていうもの。

この話を初めて聞いた人は「ほほう」って思うだろうけど、あたしみたいに何十回も聞かされてると、一代で土建屋を築いたワンマン社長が、カラオケのシメで自己陶酔しながら必ず歌う「マイウェイ」を聴かされてるのと同じくらいウンザリしちゃう。


‥‥そんなワケで、これらの「3つの袋」や「3つの坂」のスピーチは、もはや「定番」と言うよりも「ウンザリ」の代名詞であって、結婚式の出席者のみならず、新郎新婦にとっても苦痛でしかない。そこで、普通の人よりは遥かに結婚式の場数を踏んでるあたしが、最近、聞いたスピーチの中で、ちょっと面白かったものをご紹介しちゃおう。

せっかくなので、ここでは「バナナマン」の日村勇紀さんと、元NHKの女子アナでセントフォース所属の神田愛花さんの結婚式を想定して、その結婚式に出席したあたしが、愛花さんの友人代表としてスピーチをする‥‥っていうタテマエでやらせていただきます。


「勇紀さん、愛花さん、本日はおめでとうございます。ご両家の皆様にも心よりお祝いを申し上げます。ただいまご紹介に預かりました、新婦愛花さんの友人、きっこと申します。本日はスピーチをということでしたので、結婚式のスピーチの定番である「3つの袋」や「3つの坂」の話ではなく、本日はお2人が幸せな結婚生活を続けて行くために最も大切な「3つの欲」の話をさせていただきます。結婚生活で何よりも大切な「欲」、それは「食欲」です。「食」はすべての基本ですから、味だけでなく、栄養のバランスも考えた食事を続けて行くことが重要ですが、愛花さんはお料理がとっても上手で栄養士の資格も持っていますので、この点はバッチリですね。それから、次に大切な「欲」は、「睡眠欲」です。新婚だからと言って、毎晩遅くまでラブラブしていると、寝不足でお仕事に支障が出てしまいます。そして、最後になりましたが、結婚生活において大切な3つめの「欲」は‥‥‥女性である私の口からは言いにくいのですが‥‥‥ええと‥‥‥それは‥‥‥、「海水浴」です!夏が来るたびに2人仲良く海水浴を楽しめるような、いくつになっても恋人時代の気持ちを忘れない、笑顔あふれるステキな家庭を築いてくださいね!勇紀さん、愛花さん、お幸せに!」


‥‥そんなワケで、これも「3つの袋」の「金玉袋バージョン」的ではあるけど、「性欲」を思わせるだけで実際には言ってないので、女性でも使えるパターンだ。オヤジギャグと言えばオヤジギャグだけど、結婚式のスピーチというもの自体が「多少はオヤジギャグ風味でも許される」という前提なので、けっこう使えると思う。特に、「3つの袋」の話にウンザリしてる人たちには、そこそこウケると思う‥‥なんて思ってたら、ゆうべのNACK5「松山三四六 NUTS5」で、三四六さんがこのネタを紹介してた。

この番組は、某結婚式場がスポンサーなので、結婚式に絡めた話題もタマに取り上げられるんだけど、ゆうべはリスナーからの「友人の結婚式でスピーチを頼まれて困っている」というメールに対して、三四六さんがスピーチの例として「3つの欲」の話を紹介した。三四六さんの話は、あたしが知ってたものよりも完成度が高くて、最初の「食欲」のとこでは「『食』という字は『人が良い』と書きますから」なんていう金八先生みたいな小ネタも散りばめてあった。

あたしが初めてこのスピーチを聞いたのは、たしか2年くらい前だったので、もしかしたら、今日までの間に少しずつ尾ヒレが付きながら進化して来たのかもしれない。それどころか、あたしの知らない別のバージョンが存在するかもしれない。元祖の「3つの袋」の話だって、いろんなバージョンが生まれちゃって、今やオリジナルがどれなのか分からないほどなんだから。


‥‥そんなワケで、受験生に対して「落ちる」とか「滑る」とか言うのがタブーなのと同じで、結婚式のスピーチでは、「別れる」「切れる」「離れる」「壊れる」などの「忌み言葉」がタブーだ。これは誰でも知ってると思うけど、意外と知られてなかったり、知っててもウッカリと使っちゃうのが「重ね言葉」だ。たとえば、「再び」「再三」「次々」「重ねて」「重ね重ね」「ますます」「くれぐれ」「いよいよ」「しばしば」などだ。

これは、「再婚」をイメージさせるためにタブーになってるんだけど、「ますますのご発展を」とか「いよいよ門出ですね」なんて、ついウッカリと使っちゃう人もいる。だから、スピーチの原稿を書いたら、「忌み言葉」だけでなく、この「重ね言葉」も念入りにチェキしなきゃならない。さっきのあたしのスピーチの例文には、1カ所だけ「ラブラブ」ってのを使ってるけど、これはセーフだと思う。

他にも、結婚式のスピーチでは、「他人の悪口」、特に新郎や新婦の悪口は絶対にタブーだけど、学生時代からの悪友なんかがスピーチをすると、学生時代の新郎の失敗談を面白おかしく織り込んじゃう人もいる。また、「下ネタ」も基本的にはタブーだけど、ホントに内々だけのカジュアルなお式だったりすると、最初に挙げた「金玉袋」が登場しちゃったりすることもある。

ようするに、「程度の問題」ってワケで、その場にいる人たちが誰1人として不快にならずに、逆に喜んでくれるような内容であれば、多少はカジュアルな内容になっても問題ない。それよりも、1人でいつまでもダラダラと話し続けてるオジサン、それも新郎新婦と関係ない自分の自慢話を延々と話してるようなオジサンとかが一番迷惑がられる。

スピーチの時間は、3分から、長くても5分まで、これが基本で、5分を超えると、どんなにイイ話でも聞いてるほうは辛くなって来る。YOU TUBEに自作の動画をアップしてお小遣いを稼いでるユーチューバーたちも、特別の作品以外の通常の作品は、大半が5分前後に編集してある。これも、時間が長くなると観てくれる人の数がガクッと少なくなるからだ。


‥‥そんなワケで、結婚式の最中に、隣りの控室で待機してると、とんでもないスピーチに驚かされたり、酷い替え歌に呆れたりすることもあるけど、いつも最後には、新婦さんからご両親への手紙の朗読でウルウルしちゃう。さすがにあたしはプロだから、もう泣くことはメッタにないけど、それでも、過去には思わずもらい泣きしちゃったことも何度かある。そして、友人のスピーチは、やっぱり普通のものが何よりも好感が持てる。何百人ものスピーチを聞いて来たあたしの実感としては、ウケを狙ったものは大半が滑ってるから、ヘタにウケなど狙わずに、新郎や新婦との出会いや楽しかった思い出などを織り込んで、普通にお祝いの言葉を述べただけのシンプルで簡潔なスピーチが、一番喜ばれると感じてる今日この頃なのだ。


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2015.04.12

母さんの定期券

先日、母さんのお誕生日だったので、何か欲しいものはないか事前に聞いたんだけど、特に欲しいものはないと言うので、春物のお洋服でもプレゼントしようと思って、お誕生日の当日、午後から一緒にお買い物に出かけた。前もって借りておいた車に乗って、ドライブ気分で街まで行き、百貨店‥‥って言うか、百貨店みたいな駅ビルに入って、中のお店を見て回った。

駅ビルとは言っても、そこそこ広くて、たぶん100店舗くらいは入ってると思うけど、1階は食べ物関係とかで、衣料品のレディースは2階、メンズは3階にまとまってる。エスカレーターで2階に上がると、通路の両側に若い子向けのブティックが並んでて、奥の5~6店ほどが年配向けのブティックだった。

わざわざお店の中に入らなくても、ショーウインドウを見ただけで、そのお店の扱ってるお洋服の雰囲気と、だいたいの金額が分かるから、母さんとあたしは、ショーウインドウに並ぶ春物を見ながら、「こんな感じのはどう?」なんて言いつつ、それらのお店を回った。母さんと2人でブティックのショーウインドウを見て歩くのなんてホントに久しぶりだったから、とっても楽しかった。

それも、今回は、母さんへのお誕生日プレゼントを買いに来てるんだから、自然とウキウキしてくる‥‥って、この調子で書いてると、マクラだけで終わっちゃうので、ここからは駆け足でサクサクと行くけど、結局、母さんが一番気に入ったという、春物の若草色のツインニットに決めて、それをプレゼントした。半袖のセーターと長袖のカーデのセットで、襟元の細かいビーズが上品で、母さんにとってもよく似合う。

母さんは、ふだんの足が電動アシスト自転車なので、ボトムスはパンツスタイルが多いんだけど、このツインニットなら、ボトムスがパンツでもスカートでもどちらでも似合う。それから、別のお店で1000円均一のワゴンセールをやってたので、そこで掘り出したオーストラリアのサーフブランドのTシャツを1枚、自分用に買った今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、久しぶりに母さんとショッピングを楽しんだあたしは、1階の酒屋さんで母さんの好きな日本酒のハーフサイズのボトルを買い、テイクアウト専門のお寿司屋さんでお寿司を買って帰って来た。母さんにお茶を淹れてから、ビワの葉で作った入浴剤をお風呂に沈めて「ビワの葉湯」の準備をして、それから、お寿司と日本酒でお祝いをした。あたしは、用意してたカードを渡して、「母さん、ありがとう!」と言って、ギュッとハグした。

お寿司も食べ終わったので、母さんには先に「ビワの葉湯」で温まってもらい、その間に母さんのお布団を敷き、お風呂上り用の冷たいお茶の準備をして、母さんが湯舟から出たころを見計らって、あたしもお風呂に入り、母さんの背中を流した。そして、お風呂上りに、母さんにお布団に横になってもらって、日課のマッサージを始めたら、母さんが「ちょっと待って」と言って、ムクッと起き上った。

おトイレにでも行くのかな?‥‥って思ってたら、母さんは自分のバッグからお財布を出して、お財布の中から小さなカードのようなものを取り出して、「これ覚えてる?」と言いながら、あたしに差し出した。受け取って見てみると、タバコくらいの大きさのカードで、1文字ずつ違う色の色えんぴつで「かたたたき」と書いてあり、その下に「ていきけん」と書いてあって、お花の絵やウサギのシールが貼ってあった。これって、もしかして、あたしが小学1年生か2年生の時に、「母の日」に母さんにプレゼントした「肩たたき券」なの?


「きみこ、覚えてる?きみこは小学1年生の時、母の日に『肩たたき券だと使える回数が決まってるから、何回でもずっと使える肩たたき定期券をプレゼントするね』と言って、このカードとカーネーションをプレゼントしてくれたのよ」


そうだった。何となくボンヤリと思い出した。


「母さんね、ホントに嬉しかったから、きみこがプレゼントしてくれた他のカードと一緒にずっと大切にしてたんだけど、これ、画用紙だから傷んだり色褪せたりしちゃうので、何年か前に文具店でパウチ加工してもらって、それからはお守りの代わりにずっとお財布に入れてたのよ」


そう言われてみれば、このカード、パウチしてあって、その上、四隅が丁寧に丸くカットされてる。


「でも、この定期券を見せなくても、きみこは毎日こうしてマッサージしてくれるよね。ホントにありがとうね」


あたしは照れくさくなって、母さんの顔から眼をそらして、手にしてた「肩たたき定期券」に、また視線を落とした。そして、ふとカードの裏を見てみた。そしたら、そこには、赤い色えんぴつで、こう書いてあった。


「お母さん、ありがとう」


自分が書いた言葉なのに、あたしは、何故だか涙がこぼれた。35年間も母さんがこのカードを大切に持っていてくれたことに感激したのか、何十年ぶりかで見た小学1年生の時の自分の幼い文字がいじらしく見えたのか、それとも、35年経った今も大好きな母さんをマッサージできることが嬉しいからなのか、いろんな感情が入り混じって、あたしは自分の涙の意味が分からなかった。でも、気づいた時には、泣きながら「母さん、ありがとう!」と言っていた。そしたら、今度は母さんのほうから、あたしのことをギュッとハグしてくれた。


‥‥そんなワケで、あたしは、PCを立ち上げて、ラジコで文化放送の「ライオンズナイター」をつけて、母さんのマッサージを再開した。さっき、母さんがお風呂に入った時にチョコっと聴いたら、西武が1点を先制したとこだったのに、知らないうちに日ハムが6点も取って大逆転してた。そして、あと8回と9回を押さえれば日ハムは7連勝だ!あたしは、思わず、母さんをマッサージする指に力が入った!(笑)


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