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2015.06.05

映画で観る半世紀前の車たち

スズキの「アルト ラパン」が全面改良されて発売されたことを、4日付の各紙が報じた。朝日新聞の記事の冒頭を引用すると、次のように紹介されている。

 

 

「スズキは3日、女性向けの軽自動車「アルト ラパン」を全面改良して売り出した。ドライバーが乗り降りすると車が「おはよう」「シーユー(さようなら)」などと話しかけ、誕生日には音楽でお祝い。小物が入る引き出しや化粧に便利なテーブルもつけ、大幅に「女子力」を高めた。」

 

http://www.asahi.com/articles/ASH63528YH63ULFA00W.html

 

 

朝日新聞の記事によると、先代の「アルト ラバン」は購入者の9割が女性だそうで、スズキが約1年かけて女性社員や女性客の声を集めて、それを反映させたのが今回のモデルだそうだ。だから、あたしがこの記事を読んで思った「車が話しかけるとか誕生日に音楽とかってバッカみたい」という感想は、あくまでもあたし個人の感覚であって、世の中の多くの女性たちは、朝、自分の車に乗る時に「おはよう」って話しかけてほしいんだろう。

 

だけど、「しゃべる家電」や「しゃべる自販機」にもイライラしてるあたしとしては、車までしゃべり出しちゃった日にゃあ、イライラ用のタコメーターがレッドゾーンを振り切っちゃいそうだ。あたし的に「しゃべっていい車」ってのは、ドラマ『ナイトライダー』の「ナイト2000」とか、映画『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』の水中バギーとか、あとは、アニメ『フューチャーグランプリ サイバーフォーミュラ』とか、あくまでもアニメや映画の中だけであって、現実世界ではカンベンしてほしいと思う。

 

でも、このスズキの「アルト ラパン」、デザインはワリとあたしの好みだ。あたしは、昔の車の個性的なデザインが好きなので、似たり寄ったりの「今どきのデザイン」の車は好きになれない。だから、現行の国産車で「欲しい」と思う車は1台もないんだけど、この「アルト ラパン」は、どことなくレトロなデザインがイイと思う今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?

 

 

‥‥そんなワケで、数日前のこと、GyaOの特別企画で配信されてる昔の日活映画のコーナーで、『青春の風』(1968年)が無料配信されたので、あたしはさっそく観てみた。そしたら、ストーリーが面白かったのはもちろんのこと、あたしの期待する「昔の車」もたくさん登場して、とっても楽しかった。もうしばらく無料配信してるので、今回のブログを読んで興味を持った人は、このブログの内容と照らし合わせながら観てもらえれば、楽しさが倍増すると思う。

 

この映画は、サイトの解説によると「吉永小百合、山本陽子、和泉雅子といった日活3人娘に、お馴染みの浜田光夫が絡んで繰り広げるドタバタ調のラブコメ映画」とのことで、京都伸夫さんの『花の三銃士』が原作らしい。ただ、映画の最初のクレジットには「原作『花の三銃士』より」と書かれているので、原作を丸ごと再現したものではなさそうだ。

 

吉永小百合さんは「楠本光子」なので「ピカちゃん」、和泉雅子さんは「風見愛子」なので「ラブちゃん」、山本陽子さんは「小林峯子」なので「ネコちゃん」というニックネームで呼び合ってて、短大のフェンシング部で一緒だった3人は、卒業後、それぞれの道に進む。和泉雅子さん演じる「風見愛子」のお兄さんが浜田光夫さん演じる「風見圭介」で、この圭介さんとピカちゃんとネコちゃんの恋のさや当てがストーリーの根幹だ。

 

他には、ピカちゃんがハウスキーパーとして勤める「元・自宅」の外国人夫婦がE・H・エリックさんとイーデス・ハンソンさんだったり、放浪画家の岩ちゃんが杉良太郎さんだったり、養鶏場のお兄さんが藤竜也さんだったりと、脇を固める配役も楽しめる。ま、あんまり書きすぎるとネタバレになっちゃうから、ここからは車のことだけ触れてくけど、冒頭から9分くらいのとこで、ラブちゃんが勤め先のレンタカー屋さんに戻って来るシーンがある。ここで、背後に「いかるが牛乳」の自販機があることに注目しておいてほしい。

 

映画の最初のクレジットを細かく見ていれば分かるけど、この映画は「いかるが牛乳」が協賛しているのだ。だから、後半で訪ねて来たラブちゃんにピカちゃんが牛乳を出してもてなすシーンでも、画面の右下に「いかるが牛乳」のパックがちゃんと見えるように置かれてる。で、レンタカー屋さんには日野の「コンテッサ」とかが並んでて最高なんだけど、自販機のシーンのすぐあとに登場する「いかるが牛乳」の配達車も素晴らしい。水色の軽のワンボックスで、ピカちゃんに声をかけられて止まったこの車は、ダイハツの「ハイゼット」だ。

 

ダイハツの「ハイゼット」は、1960年に売り出されたボンネットタイプの軽トラックとライトバンが初代で、この映画に登場するキャブオーバータイプは2代目になる。当時は両方ともニーズがあったようで、初代のボンネットタイプは1960年から1967年まで生産され、2代目のキャブオーバータイプは1964年から1968年まで生産され、重複する4年間は用途に応じて選択購入できたようだ。

 

2代目の「ハイゼット」のエンジンは、直列2気筒の356ccで、5年間の製造期間のうち、1964年から1966年までが空冷エンジン、1966年から1968年までが水冷エンジンだ。映画に登場する「いかるが牛乳」の配達車が空冷か水冷かは判別できなかったけど、リアウインドウの形、テールレンズの形、セパレートタイプのリアバンパー、丸目の上にある眉毛のようなウインカーレンズ、オートバイのようなバックミラー、ルーフの真ん中から出ているアンテナなど、どれも最高に素敵だ。

 

また、ポーズを押して画面を停止してリアビューをよく見ると、リアの扉は右手にヒンジがあって左手にノブがあることが確認できる。つまり、今のワンボックスのような上に跳ね上げるタイプのハッチじゃなくて、ドアのように開くタイプだったことが分かる。ちなみに、この「ハイゼット」は、映画の映像には映ってないから分からないけど、運転席と助手席のドアが今の車のドアとは逆で、スバル360みたいに前から後ろへ開くタイプだ。

 

 

‥‥そんなワケで、1台の車のことを詳しく書きすぎてると先に進まないから、ここからはサクサク行くけど、冒頭から34分くらいのとこに、ピカちゃんを養鶏場まで乗せて行く「丹波畜産」と書かれたトラックが登場する。これは、トヨペットの2代目の「トヨエース」で、排気量は997cc、1トン積みのトラックだ。少し出っ張ったフロントは、丸目と丸目の間に開閉できる空気取り入れ用のダクトがあって、それを鼻に見立てるとロボットの顔のように見えるとこが可愛い。

 

冒頭から37分すぎには、またラブちゃんのレンタカー屋さんのシーンになり、また日野の「コンテッサ」が登場する。「コンテッサ」というのはイタリア語で「伯爵夫人」のことで、日野自動車がルノー「4CV」のライセンス生産で培ったノウハウを元に開発した車だ。1961年から1967年まで生産されたので、この映画が制作された当時は、とってもポピュラーな車だったんだと思う。

 

日野の「コンテッサ」は、前から見るとフロントグリルのないツルリとした顔が特徴だけど、これには意味がある。このシーンでは、ラブちゃんが車を借りに来たカップルの接客をしてて、そのカップルが「コンテッサ」に乗ってお店から出て行くので、その時の車のリアビューに注目してほしい。普通の車と違って、リアのテールランプとかがある面のほうが全面「グリル」になってる。これは「コンテッサ」が、リアエンジン・リアドライブの車だからだ。

 

まあ、日野の「コンテッサ」は有名だし、今でもレストアして大切に乗ってるマニアも多いから、知ってる人もたくさんいると思うけど、この後、冒頭から51分くらいのとこから登場する真っ赤なオープンカーは、今はメッタにお目にかかれない。ピカちゃんとラブちゃんが四国のお遍路に使う真っ赤なオープンカーは、ダイハツの「コンパーノ」だ。これはコンバーチブルなので、1965年に発売された「コンパーノ・スパイダー」、直列4気筒の958cc、65馬力のエンジンを積んでる。

 

 

‥‥そんなワケで、映画で主役の美女の運転する車の定番が「真っ赤なオープンカー」になったのは、これはあたしの推測だけど、映画がモノクロからカラーに変わった時に確立されたことだと思う。この『青春の風』から10年前の1957年に公開されたフランス映画『殿方ご免遊ばせ』の中で、主役のブリジット・バルドーは「真っ赤なオープンカー」、シムカの「アロンド・オセアーヌ」に乗ってるけど、当時はまだモノクロの映画もたくさん作られてたから、この「ブロンドの美女と真っ赤なオープンカー」という色彩的なインパクトは、相当のものだったと思う。

 

だから、この『青春の風』の中で、吉永小百合さんと和泉雅子さんが乗る車に「真っ赤なオープンカー」が選ばれたのも、いろいろと話し合った結果とかじゃなくて、最初から決まってたように思う。そして、コロナのコンバーチブルにするか、パブリカのコンバーチブルにするか、それともダットサンのフェアレディにするか‥‥みたいな、「どのメーカーの、どのオープンカーにするか」という話し合いだけが行なわれ、予算の関係とか協賛の関係とかのモロモロの大人の事情によって、このダイハツの「コンパーノ・スパイダー」に決まったんだと思う。

 

あたしの個人的な趣味だと、この時代の国産のオープンカーなら、何と言ってもダットサンのフェアレディが好きだ。でも、この映画の中で吉永小百合さんが運転するのなら、パワフルな本格派のスポーツカーよりも、トヨタの「パブリカ」やダイハツの「コンパーノ」など、大人しい車のほうが似合ってるから、これは正解だと思う。

 

 

‥‥そんなワケで、ここまでに取り上げて来た車の他にも、丸みを帯びた路線バスやボンネットのあるダンプカーなど、素敵な車がたくさん登場する映画だけど、ラストシーンに登場する「ワンワンパトカー」が、これまた素敵だ。詳しい内容はネタバレになるから触れないけど、これは1957年から1966年まで生産されたニッサンの初代の「キャブオール」だ。1966年にフルモデルチェンジした2代目はヘッドライトが丸目4灯なので、映画に登場する丸目2灯の「ワンワンパトカー」は初代の「キャブオール」ということになる。

 

微妙に丸みを帯びたスタイル、冷蔵庫の裏のようなフロントビュー、開閉できないハメ殺しのリアのサイドウインドウ、逆向きに開くため前のほうに付いてる運転席のドアのノブなど、あたしの萌えポイントが満載だ。そして、うっとりしながらこのニッサンの初代の「キャブオール」を眺めていたら、この車の前で圭介さんと話すピカちゃんの顔をナメた横に、ナニゲに可愛いピックアップ・トラックの後ろ姿が見えた。

 

運転席の屋根が白くて、ボディーが昔の商用車によくあるブルーグレーで、サイドに「六甲なんとか」って書いてある。リアウインドウが小さくて可愛いし、リアフェンダーもプレスのオーバーフェンダーでカッコイイ‥‥って、おおっ!運転席のすぐ後ろの荷台のサイドにエアダクトのルーパーが上下に2つ切ってある!そう、これはマツダのオート3輪の「K360」、通称「ケーザブロー」だ!

 

軽のオート3輪と言えば、映画『稲村ジェーン』に登場したダイハツの「ミゼット」が有名だけど、さすがは西日本を舞台にした映画だけのことはある。偶然に映り込んでたのが広島に本社があるマツダの「ケーザブロー」だったとは!‥‥ってことで、当時の軽のオート3輪は、ダイハツが「ミゼット」、三菱が「レオ」だったのに対して、マツダの「K360」は呼びにくいため「ケーザブロー」とか「ケサブロー」とか呼ばれてたそうだ。

 

あたしは自動車の博物館でしか実物を見たことがないけど、当時の軽のオート3輪の中だと、この「ケーザブロー」が一番可愛くて好きだ。だから今回は、レストアされた今の「ケーザブロー」じゃなくて、実際に働いてた当時の「ケーザブロー」の貴重な姿を見るために、ポーズを押して画面を停止させてジックリと眺めた。だけど、デジタル・リマスターされた映像でも、やっぱり荷台のサイドに書かれた文字はよく分からなかった。

 

 

‥‥そんなワケで、あたしは、停止した画面で吉永小百合さんの顔の横に半分だけ見えてる「ケーザブロー」の姿をぼんやりと眺めながら、目を細めたり、画面から離れてみたりと、いろいろ工夫してみた。そしたら、「六甲」の後のハッキリ見えない文字が、何となく「牧場」に見えて来た。もしも「牧場」だったとしたら、「六甲」と「牧場」の間の三角マークが「山」という意味になり、「六甲山牧場」ということになる。ま、そこまで推測しても仕方ないんだけど、こんなに可愛い車が、趣味とかじゃなくて、実際に「働く車」として全国各地で走り回ってただなんて、ホントに素敵だと思う‥‥ってなワケで、この映画『青春の風』(1968年)は、GyaOで6月15日まで無料配信してるので、興味を持った人はお見逃しなく!それから、吉永小百合さんとお父さんが2人で釣りをするシーンで、親子そろってスピニングリールの使い方を間違えてるので、釣りが好きな人はそこもお見逃しなく!‥‥なんて感じの今日この頃なのだ(笑)

 

 

■映画『青春の風』(6月15日まで)■
http://gyao.yahoo.co.jp/player/00805/v10209/v0985100000000541802/

 

 

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