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2015.12.18

ナナコの足跡

あたしの大好きな小説、それこそ、マイ・フェバリットと言っても過言じゃないほど大好きな小説は、前にも何度か書いたことがあるけど、角田光代さんの『対岸の彼女』だ。『対岸の彼女』は直木賞受賞作なので、角田光代さんの代表作とも言えるけど、角田光代さんには他にも『空中庭園』や『八日目の蝉』や『紙の月』など、ドラマ化されたり映画化された作品もたくさんあるから、『対岸の彼女』は「数多くある代表作の中のひとつ」とでも言うべきだろうか。

でも、あたしにとっては特別な一冊で、やっぱり、マイ・フェバリットなのだ。それは、この小説に登場するナナコのことが、好きで好きでたまらないほど好きだからだ。有名な作品だから、読んだ人も多いと思うので、細かい内容には触れないけど、この作品は二部構成になってる。楢橋葵という女性の、大人になった現在の章と、高校時代の思い出の章、これが順番に繰り返され、小さな波や大きな波を作りながら、少しずつ融合して加速して行く。

現在の章では、主人公は田村小夜子。結婚していて小さな女の子が1人いる。楢橋葵は大学卒業後に立ち上げた旅行会社を切り盛りしてるんだけど、それだけじゃ食えないのでキッチン掃除なども請け負う「なんでも屋」のような会社を経営してる。三十代半ばの独身で、この会社に同い年の小夜子がパートとして勤務したことで仲良くなる。全編を通じての主人公は葵だけど、この現在の章では小夜子を主人公として描かれている。

そして、思い出の章では、中学時代にイジメに遭って横浜から母親の実家のある群馬へ引っ越して、群馬の女子高へ入学した葵が主人公だ。中学時代に自分をイジメた人たち、自分がイジメられていたことを知っている人たちが1人もいない新しい場所で再スタートを切るために、タクシー運転手のお父さんと、専業主婦だったお母さんと、3人で引っ越してきたワケだ。

中学時代に辛いイジメを体験した葵は、とにかくイジメの対象になることを極度に怖れ、目だたないように、目だつ子たちに目を付けられないようにと、慎重に日々を過ごそうとつとめる。でも、そんな葵に、入学式の時から馴れ馴れしく声を掛けてきた子がいた。野口ナナコだ。「魚子」と書いて「ナナコ」と読む。「魚子織り」という織物の名前からおばあ様が名付けたそうだ。

背が低く、葵の肩ほどしかないナナコ。痩せていてショートカットで、小学生の男の子のような横顔をしたナナコ。「GO!プリンセスプリキュア」の天ノ川きららが、初対面で馴れ馴れしく春野はるかのことを「はるはる」、海藤みなみのことを「みなみん」と呼んだように、ナナコも葵のことを初対面で馴れ馴れしく「アオちん」と呼ぶ。でも、それが、ぜんぜん馴れ馴れしく感じられない。天ノ川きららと同じで、とっても可愛くて憎めない感じの今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、あたしが『対岸の彼女』のナナコのことをどれほど大好きかは、2012年2月26日のブログ「8年目のナナコ」にタップリと書いてるので、一部を抜粋してみる。


「葵の肩くらいまでしかない背丈、ショートカットで小学生の男の子のような顔立ち、初対面なのに馴れ馴れしく話しかけてくるナナコ。そんなナナコと、複雑な心の傷を持った葵とのひと夏のストーリー。もしもこの本に、高校生の時に出会っていたら、あたしはどんなに救われただろうか。でも、この本は、あたしが30歳を過ぎてから刊行された作品だから、そんなことは物理的に無理な話だ。だから、今、中学生や高校生の女の子たちが羨ましい。こんなに素晴らしい作品を葵やナナコとおんなじ年齢で味わうことができるのだから。それでも、あたしは、ナナコのことが愛おしくて、切なくて、可愛くて、いじらしくて、読むたびに何度も号泣してしまう。」


あたしってば、結局、今回もまた同じようなことを書いてるね(笑)‥‥ってなワケで、今回は、実は新しい発見があったのだ。それは、どこかへ消えてしまったナナコの「現在」、と言うか「その後」についてだ。この『対岸の彼女』の中では、夏休みに2人で伊豆の海辺のペンションに住み込みのバイトに行ったんだけど、バイトが終わって自宅に帰る時になって、ナナコが「帰りたくない」と泣き出してしまう。駅のベンチで大粒の涙をポロポロとこぼしながら「帰りたくない、帰りたくない、帰りたくない」と泣き続けるナナコを見て、葵は決心する。そして、2人の逃避行が始まる。

葵の土地勘のある横浜を中心に、2人で安いラブホを泊り歩き、女性無料のディスコで食事をし、補導されないように髪を脱色し、大人っぽく見えるように化粧をし、2人の逃避行は続いて行く。でも、最初から持っていたお金と2人のひと夏のバイト代とで45万円もあった資金も、とうとう20万円を切ってしまった。家計簿代わりのノートを見ると、2人で1日に1万円は必要だと分かる。このままじゃ、あと20日ほどで資金が尽きてしまう。

お金が必要なら身体を売るというナナコに、「だってナナコは処女でしょ?」と止める葵。「そんなもの別に大切じゃない」というナナコに、「そんなこと、しなくていいよ、ナナコ」という葵。この辺には中学時代に葵をイジメた元クラスメイトたちが住んでるから、そいつらを襲ってお金を奪うという葵。そして、とうとうファストフード店でバイトしていた元クラスメイトを見つけて、カツアゲをしてしまう。葵は髪を染めて化粧をしていたので、相手の女の子は葵だとは気付かなかった。

巻き上げたお金は7000円だったけど、とうとう戻れないところまで足を踏み入れてしまった葵とナナコ。マンションの屋上でキャラメルを食べながら、何気ない会話を続ける2人。「ねえ、アオちん。アオちんは本当は帰りたい?もう疲れたんじゃない?帰りたいんじゃない?」と聞くナナコに、「帰りたくはない」とひと言だけ答える葵。

「あたしたち2人なら何でもできるね!どこにでも行けるね!」と笑い合っていた2人は、もうクタクタに疲れていた。そして、本当はどこにも行けないのだということにも気づき始めていた。そして、気が付いた時には、2人で手をつないでマンションの屋上からジャンプしていた。後の章には、次のように書かれている。


「死んでしまおうという明確な意志はなかった。葵はただ、どこか別の場所にいきたかった。カツアゲをしなくていい、ラブホテルを捜し歩かなくていい、補導員の目にびくびくしなくてもいい場所。」


‥‥そんなワケで、マンションはそれほど高くなかった上に、2人が飛び降りた場所は自転車置き場のトタン屋根で、そこでバウンドして芝生へ落ちたため、死ぬどころか、骨折もせずに打撲だけだった。だけど、もちろん葵の両親からは警察に捜索願が出ていたし、葵が細かく付けていた家計簿代わりのノートから2人の行動がすべて分かってしまったため、週刊誌は「レズビアンの女子高生カップルが逃避行の末に自殺未遂をした」と面白おかしく書き立てた。

葵は1日中ずっと自宅で母親や祖母から監視されるようになり、親の目を盗んでナナコの家に電話をすると「現在は使われておりません」と繰り返すだけ。母親も祖母もナナコのことを教えてくれない。家を抜け出してナナコの家まで行ってみたら、引っ越した後でガランとしていた。ナナコ、ナナコ、どこへ行ってしまったの?

でも、この後、一度だけ、タクシー運転手のお父さんが葵のために、母親には内緒でナナコに会わせてくれた。待ち合わせの神社に行くと、お父さんのタクシーの前にナナコが立っていた!まるで夢を見ているような気分の葵に、「あはは、アオちん、元気そうだね」と笑うナナコ。逃避行中にオキシドールで脱色したナナコの髪は、黒髪が生え始めて「プリン頭」になっていた。

ナナコは県内の別の場所に引っ越しして、学校も転校することになったという。住所が分かったら必ず手紙で知らせるからと言って、2人は別れた。でも、手紙は来なかった。これが、葵とナナコの最後のシーンだ。だから、小夜子が主人公の現在の章には、ナナコは一度も登場しない。この日、ナナコと別れた葵は、二度とナナコと会えないまま、大学へ進学し、ベトナムやインドやネパールを旅してまわり、帰国後に小さな旅行会社を立ち上げ、もう三十代の半ばになってしまった。

だから、この『対岸の彼女』を読んだ人なら、この作品が好きな人なら、ナナコのことが大好きな人なら、誰もが「ナナコはどこへ行ってしまったのか?」ということが引っ掛かってると思う。もちろん、あたしもだ。そこで、いよいよ、今回、あたしの発見したナナコの足取りを発表したいと思う。

この作品では、現在の章にはナナコは登場しないと書いたけど、最後のほうの章で、大学時代にラオスを旅していた葵に1人の青年が近づいてくる。その青年は流暢な英語で、「日本人の友達がいる。君に良く似た女の子で、去年、ここで出会った」と言った。何という名前だったか尋ねる葵に、その青年は「ナナコ」だと答える。驚く葵。もちろん、偶然の同名かもしれないけど、あれ以来、連絡の取れなくなっていたナナコの足跡が、ここラオスに残っていたかもしれないのだ。

「君より背の低いきれいな子で、タイからラオスに来て日本へ帰った。日本では東京に住んでいると言っていた」、そして、「手紙と写真が家にあるけど、見にくるか」という青年の言葉を信じて着いて行くと、その青年は廃屋の前で強盗に早変わり。葵は現金やトラベラーズチェックを奪われてしまう。だから、葵はナナコの手紙も写真も確認してないし、話そのものが嘘だったのかもしれない。でも、「ナナコ」という名前や「君より背が低い」という特徴が、すべて偶然だったとも思えない。


‥‥そんなワケで、ようやく核心へと迫っちゃうけど、この答えは角田光代さんの別の小説、『みどり月』の中にあったのだ。この本には『みどりの月』と『かかとの下の空』という2つの作品が収められていて、2つの作品がひとつのストーリーのようでもあり、別の作品でもある。『みどりの月』は、恋人のキタザワから「一緒に暮らそう」と言われた南がキタザワのマンションに引っ越して行くと、そこにはマリコとサトシというカップルが同居していた。マリコは書類上はキタザワの妻だけど、お互いに恋愛感情は消滅していて、それぞれが別の恋人を作ったのに、同居しているという不思議な関係だ。

で、このマリコという女が、小柄で痩せていて、顔はきれいなのに髪も梳かさずにパジャマのまま出かけてしまったり、南がお風呂に入っていると平気で入ってきてしまうようなおかしな子なのだ。フィリピンやタイの女性が働いているパブのような店で、ピアノを弾いて歌を歌っている。そして、店の女性から、東南アジアのほうの国に行けば、歌を歌って生活できるという話を聞かされ、本当に行こうとする。

この話は、なんやかんやでウヤムヤに終わり、続く『かかとのしたの空』は、『みどりの月』とは無関係のカップルが東南アジアへ旅行に行く話なんだけど、その旅先で出会ってつきまとわれるのが、オレンジ色の目立つ巻きスカートを穿いた日本人の小柄な女性で、歌を歌って生活しているという。ほとんどお金は持っていないので、カップルが泊る安宿にも泊れず、バスターミナルで夜を明かしたりしている。

この女性とはタイで別れるんだけど、ここで、さっき紹介した『対岸の彼女』での葵の東南アジア旅行がつながるのだ。葵を騙した強盗の青年は、背が低くてきれいな「ナナコ」と名乗る日本人女性が、タイからここラオスにやってきて、日本へ帰って行ったと言っていた。もちろん、すべてが作り話だという可能性もあるけど、人って、嘘をつく時には部分的にホントのことを織り込み、リアリティーを演出しようとすることが多い。葵を騙してお金を巻き上げるために、1年前に実際に出会った日本人女性の話をしたとも考えられる。

葵が旅に出たのは大学3年生の時で、ラオスに着いたのは約1年後なので、21歳か22歳の時だ。もしもナナコが高校卒業後に上京して、2年くらい一生懸命にバイトをしてお金を貯めて、20歳を過ぎたころに旅に出ていたとしたら、葵と同じルートを1年くらい前に通過していた可能性もある。まるで高校生の時のあの夏のように、お金を使い果たしてしまい、それでも日本に帰りたくなくて、一張羅のオレンジ色の巻きスカートで、歌を歌って僅かなチップをもらったり、日本人カップルにたかったりしながら、タイからラオスへと旅を続けたのかもしれない。


‥‥そんなワケで、あたしがそんなふうに感じたのは、『対岸の彼女』の一番最後の章で、小夜子が葵の留守にパート先の会社でふと手にした文庫本から落ちた、一通の手紙の内容からだった。それは、高校時代にナナコが葵へ送った手紙だ。これを読むと、高校時代を最後に二度と会うことのなかったナナコと葵が、地球儀の上のいろんな場所を時間差で通過していたように思えてならない。そして、通過した時間は違っても、2人の手と手がしっかりとつながれていたと思えてならない今日この頃なのだ。


ハローアオちん。
さっき電話でしゃべったばっかなのにもう手紙書いてるよ。今日の夜ごはんはなんだった?あたしはうちの人るすで、なんかつくるのめんどくて、さっきおかし食べただけ。コアラのマーチだよ。今はまってんだ。
今日ね、世界史の時間に、めずらしくマツバラがじゅぎょう脱線してむだ話したの。しってた?マツバラってあんなんだけど、世界じゅう旅行したことあるんだって。それでね、どこがいちばんきれいでしたかって、りっちゃんが質問したの。どこだと思う?マチュピチュだって。そんなのどこにあるかわかんないよね。なんか幻の空中都市なんだって。ぜんぜんイメージわかないけど。
マツバラ、スイッチ入っちゃってそのあとずっと旅行の話してた。それ聞きながら、あたし考えたの。ねえアオちん。いつかいっしょに旅行いきたいね。フランスとかさ、オーストリアとかさ、うーんどこでもいいや。でもとにかくいってみたいな。あたしたちが一番きれいだって思うのって、どこだろうね。あたしはそれを知りたいな。
もし旅行とかしたら、この退屈な町もなつかしく思えたりするのかなー。わたらせ川が見たい!なんておフランスで思うとか。そんなのやだけど、でもそうだったらちょっといいね。ってへんだけど、でも、もしこの町に帰ってきたいと思えたらなんかそれってしあわせだよね。
あしたいつもの川のところで待ってるね。オリーブの新しいやつと北斗の拳持ってくね。帰りに駅いったら文房具屋で地球儀見てみない?マチュピチュってどこだかさがしてみようよ。いやだったらいいけど。
ツナチーズのクレープが食べたいなり。やっぱおなかすいたなー。なんかつくろっかなー。
どうでもいいことたくさん書いちゃった。また明日会えるのにね。ばかみたい。
じゃあねー。またあした。川で待ってます。
ナナコより


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