きっこのオススメ無料映画
ゆうべ、GyaOで無料配信してたB級映画『バッドガール』(2012年 アメリカ)を観て、ちょっと感じることがあったので、今、急いでこのブログを書いてる。何でかって言うと、この映画のGyaOでの無料配信は1月7日までなので、もしもこのブログを読んで「観てみたい」と思った人がいたら、ギリギリで間に合うようにと思ったからだ。
この映画の原題は『Girls Against Boys』、直訳すれば「男の子に対する女の子」って意味だけど、ザックリ言っちゃえば、男たちに酷い仕打ちを受けた女子大生が、バイト先で知り合った女性と2人で、その男たちに復讐をして行くという内容で、エグい殺人シーンや女性の裸も出てくるので「R-15指定」になってる。
とは言え、刃物や電動ノコギリが肉に食い込む様子は直接的には見せず、事前と事後の映像をつないで表現しているので、スプラッターマニアには物足りないと思う。また、冷静にストーリーを追うと、主人公の女子大生、ダニエル・パナベイカー演じるシェイが男たちから受けた仕打ちに対して、ここまでの復讐はどう見ても「やり過ぎ」だし、これほど殺人を犯しておいて、騒ぎにもならず警察に捕まらないのも理解できない。
だから、表面的に観ただけなら、これは完全に時間つぶしのためのB級映画と言われてしまうだろう。だけど、あたしは、この作品の中に、とても惹かれる「純粋な狂気」を感じたのだ。それは、主人公のシェイと知り合って男たちへの復讐を淡々と続けていく女友達、ニコル・ラリベルテ演じるルーに、こないだブログに書いた角田光代さんの『対岸の彼女』に出てくるナナコの影を感じたからだ。
角田光代さんの『対岸の彼女』が好きな人なら、この映画の主人公シェイを「葵」、ルーを「ナナコ」に置き換えて鑑賞すると、単なるB級映画ではなく、俗な表現で言えば「ノンケを愛してしまった同性愛者」の切なくて悲しい内面性を感じられると思った今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、少しだけネタバレ的な解説をすると、主人公の女子大生シェイは、30代の既婚男性と不倫の関係なんだけど、その男性テリーから別れを告げられる。家族を大切にしたいから、これ以上は君と会えないと言う。そして、ショックを受けつつもバイト先の飲み屋に行ったシェイは、先週からバイトに来ているというルーと知り合う。
冒頭から登場するルーは、決して「飛び抜けた美女」とは言えないけど、少し目が離れた猫顔の女性で、独特の魅力を醸し出してる。そんなルーは、シェイを元気づけようとクラブに誘うんだけど、そこで知り合った男性からも、シェイは酷い仕打ちを受けてしまう。そして、ルーはシェイの復讐を始める‥‥と言う流れだ。
これだけなら、よくある復讐のストーリーなんだけど、あたしの琴線に触れたのは、いろんな場所に散りばめられてる細かい演出だ。まず、冒頭の大学の講義のシーンでは、女性教授が、日本の芸術家、会田誠さんの作品を取り上げて、「女子高生を男のおもちゃとして描いている」「未成年の少女らを男の食べ物として描いている」と言って厳しく批判してる。ようするに、ここで、「男におもちゃにされた女性は復讐してもいいのだ」という前フリをしてるワケだ。
そして、シェイの不倫相手だったテリーへの復讐へ向かう2人。テリーが出勤するために乗り込んだ車を襲い、テリーを拘束して後部座席の下に転がし、シェイが運転して、助手席にはルーが座り、2人は市街へ向かう。この時、カーラジオなのかCDなのか分からないけど、ドノヴァンの「サンシャイン・スーパーマン」が流れ始めて、助手席のルーはテリーを脅したピストルをマイク代わりにして陽気に歌う。シェイも一緒に笑顔で歌ってる。
「Sunshine came softly through my window today
I could have tripped out easy but I’ve changed my ways.
It’ll take time I know it, but in a while...
You’re gonna be mine and I know it, we’ll do it in style.
Cause I’ve made my mind up you’re going to be mine
I’ll tell you right now...
Any trick in the book, oh baby, that I can find.」
「やわらかい日の光が窓から入ってきて~」と陽気に歌い出した2人だけど、「you’re going to be mine」(あなたは私のもの)という部分で、後部座席で拘束されてるテリーの顔がカットインする。巧い演出だ。
そして、テリーへの復讐を終え、ドライブインで食事を済ませると、今度はルーが運転をして、シェイが助手席に乗って、次の復讐へと走り出す。ここでは、同じくドノヴァンの「ハーディーガーディーマン」が流れ、ハンドルを握るルーは、さっきと同じように一緒に歌い始める。でも、助手席のシェイは、暗い顔で沈黙している。
「Thrown like a star in my vast sleep
I opened my eyes to take a peek
To find that I was by the sea
Gazing with tranquility
'Twas then when the Hurdy Gurdy Man
Came singing songs of love
Then when the Hurdy Gurdy Man
Came singing songs of love
"Hurdy gurdy, hurdy gurdy, hurdy gurdy gurdy" he sang
"Hurdy gurdy, hurdy gurdy, hurdy gurdy gurdy" he sang
"Hurdy gurdy, hurdy gurdy, hurdy gurdy gurdy" he sang」
「ハーディーガーディー」と言うのは、バイオリンのような形状のボディーを持ち、お尻のところにハンドルが付いていて、それを回すことによって弦が擦られて音が出る楽器で、これを持って旅をしながら歌っているのが「ハーディーガーディーマン」、大道芸人や吟遊詩人のことだ。そんなハーディーガーディ―マンが「私のもとへ愛の歌を歌いにきた」と歌ってる。
シェイの元恋人に復讐をして、こんな歌を陽気に歌うルーと、自分たちのやってしまったことに「恐れ」や「とまどい」や「後悔」が交差して沈黙するシェイ。結局、ルーは、「友達の復讐」を手伝ったのではなく、自分が好きになってしまったシェイを自分だけのものにするために、こんな凶行を行なっていたのだ。ドノヴァンの「ハーディーガーディーマン」を陽気に歌うルーは、自分のことを「悲しみの中にいる少女に愛の歌を届けにきた吟遊詩人」と重ね合せたのだろう。
‥‥そんなワケで、ドノヴァンと言えば、ライブでドノヴァンの楽曲をよくカヴァーしていた故・加藤和彦さんが、ドノヴァンにちなんで「トノバン」という愛称で呼ばれてたことが有名だ。他にも、RCサクセションの「チャボ」こと仲井戸麗市さんの「麗市」は、ドノヴァンの本名、ドノヴァン・フィリップス・レイチの「レイチ」から付けられたものだ。
有名なことなので、あたしなんかが今さら書くのもアレだけど、さっきのドノヴァンの「ハーディーガーディーマン」、これは1968年にリリースされた作品で、クレジットを見ると、エレキギターにジミー・ペイジ、ベースとアレンジにジョン・ポール・ジョーンズ、ドラムにジョン・ボーナムが参加してる。つまり、「後のレッド・ツェッペリン」というワケだ。
44年も前に作られた楽曲が車のスピーカーから流れてきて、それに合わせて陽気に歌う20代(という設定)の女性、何だか不思議な感じもするけど、アメリカやイギリスで大ヒットした楽曲だから、そう考えれば納得できる。北島三郎さんが「は~るばる~来たぜ函館~♪」と歌う「函館の女(ひと)」、加山雄三さんが「ぼかぁ幸せだなあ‥‥」とセリフを言う「君といつまでも」、どちらも1965年、半世紀も前の楽曲だけど、日本で暮らしてる人なら、若くても知ってる人のほうが多いだろう。
‥‥そんなワケで、このブログを読んだ上で映画『バッドガール』を観てもらえれば、単なる「B級スプラッター映画」ではなく、同性である女性を好きになってしまった女性の切なさと狂気を感じることができて、別の角度からも楽しめると思う。それから、もう1本、こちらも無料配信してる『ティム・バートンのコープスブライド』(2005年 アメリカ/イギリス)、これはアニメ映画なんだけど、死体の花嫁エイミーが、最初は不気味で、そのうち可愛く見えてきて、最後には切なくて泣いちゃった。とっても素晴らしい作品なので、まだ観たことがない人は、この機会に、ぜひ楽しんでほしいと思う今日この頃なのだ♪
『バッドガール』(1月7日まで無料配信中)
http://gyao.yahoo.co.jp/player/00938/v00372/v0000000000000000432/
『ティム・バートンのコープスブライド』(1月8日まで無料配信中)
http://gyao.yahoo.co.jp/player/00597/v12467/v1000000000000001622/?list_id=2031943
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