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2016.05.10

コリジョンルールについて

5月6日の西武×日本ハムで、今季から日本のプロ野球に導入されたコリジョンルール(衝突ルール)が適用されて、初めて判定が覆った。このルールは、ホームベース上でのクロスプレーによるケガを少なくするために導入されたもので、ザックリと言えば、三塁からホームに突っ込んで来るランナーのために、ホームベースを空けてベースカバーしなきゃならないと言うものだ。だから、基本的には、キャッチャーの問題になる。だけど、セパ両リーグで初めて適用されたのは、キャッチャーじゃなくてピッチャーだった。

この日の先発は、西武が高橋光成(こうな)、日本ハムがメンドーサで、1回裏に西武が2点を先制し、2回表に日本ハムが1点を返すと、その裏で1点を取られ、3回表にまた日本ハムが1点を返し‥‥という競り合いで、西武が1点リードした「3-2」で6回を迎えた。高橋光成は先頭バッターの中田翔をファウルフライに打ち取ったけど、続く近藤健介にヒットを打たれ、次のレアードの打球を三塁のおかわり君がファンブルして、一、二塁ともにセーフ。

ここから高橋光成のピッチングが乱れ始め、次の淺間大基にもヒットを打たれて1アウト満塁のピンチ!そして、続く大野奨太に痛恨のデッドボールを与えてしまった。1点差でリードしていたので、自分のミスで押し出しの同点にしてしまったワケだ。そして、気持ちの切り替えができなかったのか、次の西川遥輝にワイルドピッチ!パリーグでナンバーワンのキャッチャーの炭谷銀仁朗でも、さすがにこれはキャッチできない。三塁側のベンチのほうへ転がって行くボールを追う炭谷銀仁朗、ホームへカバーに入る高橋光成、三塁ランナーのレアードはその横を悠々と走り抜けて行く。これで日本ハムは1点勝ち越しだ。

そして、二塁ランナーの淺間大基も、三塁を蹴ってホームへ突っ込んで来た。高橋光成は三塁方向に向いてホームベースを跨ぐようにベースカバーしていたので、淺間大基は高橋光成の股の間にヘッドスライディング!炭谷銀仁朗からの送球をキャッチした高橋光成は、滑り込んで来た淺間大基の背中にタッチしながら前につんのめって倒れ、淺間大基のスパイクでアゴのあたりを少し切ってしまった。これがほぼ同時で、主審は「アウト!」を宣言した。タイミング的には完全にアウトだったし、去年までのルールなら間違いなくアウトになっていただろう。

でも、ここで飛び出して来たのが、今季から導入されたコリジョンルールだった。つまり、タイミング的にはアウトでも、「ホームベースを跨ぐ形で立ちはだかる」という高橋光成のベースカバーの体勢が、コリジョンルールに抵触してるんじゃないか?‥‥ってワケだ。そして、ビデオ判定の結果、コリジョンルールが適用されて、「アウト」の判定が「セーフ」に覆ってしまった今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、高橋光成は、どうして大事な場面でワイルドピッチをしてしまったのか?それは、打席に立つ西川遥輝が左バッターだったからだ。この回、高橋光成は、右の中田翔をファウルフライに打ち取ったけど、続く左の近藤健介にはヒットを打たれた。次の右のレアードも塁に出たけど、これは三塁のおかわり君のファンブルによるもので、うまく行けばゲッツーで3アウトになっていた。

しかし、ゲッツーどころか1アウトも取れずに、次の左の淺間大基にもヒットを打たれて満塁にされた。つまり、高橋光成としては、左の2人にヒットを打たれたことが強く脳裏に残っていたんじゃないかと思う。そして、デッドボールで同点に追いつかれてしまった次が、またまた左の西川遥輝だったワケだ。プロ入り2年目、まだ19歳の高橋光成にとって、2点の先制と追加点をもらっていながら、自分のミスで同点にされてしまった上に、左バッター2人に得点に絡むヒットを打たれた後の左バッター、それも、長打力もあるし足も速い西川遥輝だ。

あたしは日本ハムのファンだけど、西武も大好きなチームだし、高橋光成にも期待してるから、この時ばかりは「踏ん張れ!」って応援しちゃったよ。だけど、結果は予想外のワイルドピッチ、そして、さらに予想外のコリジョンルール、その上、西川遥輝にはスクイズを決められて、2アウトの「3-6」、もう限界かな?‥‥って思った。でも、田辺徳雄監督は高橋光成を育てるために、あとアウト1つを取らせようと続投させた。

それなのに、嗚呼それなのに、それなのに‥‥。高橋光成は、続く陽岱鋼にフォアボールを与え、次の中島卓也にもフォアボールを与えてしまい、またまた、一、二塁。さすがに、ここで田辺監督はピッチャー交代を告げた。そして、日本ハムは2点を追加し、西武も何とか意地の1点を返したんだけど、結局、「4-8」のダブルスコアで日本ハムが勝利した。


‥‥そんなワケで、この時点でも今でも日本ハムはパリーグ3位で、1位のソフトバンクと2位のロッテにずいぶん離されている。その上、この日は、ホームである札幌ドームにソフトバンクを迎えての3連戦で「2敗1引分」という情けない結果の直後だった。それも、4点も先制したのに逆転負けしたり、同点で迎えた9回裏の2アウト満塁のフルカウントで、中田翔がボール球を振らなければサヨナラ押し出しフォアボールだったりと、マジでストレスの溜まる3連戦を終えたばかりだった。

レアードが2本もホームランを打ったのに負ける。陽岱鋼と大谷翔平と中田翔とレアードがホームランを打ったのに勝てない。なんなんですか!ソフトバンクが強すぎると言うよりも、日本ハムが情けなさすぎる。このソフトバンクとの3連戦には、ホントに凹んだ。だから、あたし的には、次の西武との3連戦はスカッと3連勝してほしかった。

だけど、その西武との3連戦の初戦で、勝つことは勝ったけど、今季から導入された新ルールによる判定をキッカケにした勝利って、なんか素直に喜べないような、複雑な気分になった。だって、去年までのルールなら完全にアウトだったワケだし、そしたら2アウトになってたから西川遥輝はスクイズできなくて、こんなに簡単に追加点は入らなかったワケだ。そして、「2点勝ち越された1アウト」と「1点勝ち越された2アウト」じゃ、ピッチャーのプレッシャーもぜんぜん違うと思うから、高橋光成はこの回を終わらせていたかもしれない。

そうなれば、続く中継ぎのピッチャーにしても、負担がぜんぜん違う。得点圏内にランナーを背負った状況での火消しと、イニング頭からのまっさらな状況では、たとえ相手に何点かリードされていても負担がぜんぜん違うから、ゲームの結果は大きく変わっていたかもしれない。もちろん、終わったゲームに「たられば」を言っても仕方ないけど、これからも、この、イマイチ判定の基準が分かりにくいコリジョンルールが使われて行くんだから、攻撃側も守備側も、去年までの野球とはいろいろな点で違ってくることになる。

今回のケースからも分かるように、去年までは完全にアウトのタイミングだったものでも、コリジョンルールの適用によってセーフになってしまう。今回、もしもアウトを取ろうとしたら、ベースカバーに入ったピッチャーはホームベースの横に立たなくてはならず、滑り込んで来たランナーを「迎え撃つ」のではなく、「横からグラブで追いかけてタッチする」しかないワケで、タイミング的には完全にセーフになってしまう。

だから、コリジョンルールの導入が決まった時には、三塁ランナーが内野ゴロでもホームへ突っ込んで来る「ギャンブルスタート」が多くなると言われていた。今までアウトだったタイミングのものがセーフになるんだから、1点を争うようなゲームの場合は、誰もがそう考えるだろう。そして、守備のほうも、0.1秒でも早く内野ゴロを捕球してホームへ正確に投げて刺さなきゃならないから、状況によっては「超」がつくほどの前進守備を取らざるを得ない。

また、ノーアウトか1アウトで、一、三塁にランナーがいる場合だと、内野ゴロを捕ってバックホームしてもアウトにできなければ、アウトのカウントは変わらずに点だけ取られて、またまた、一、三塁というピンチが続くことになる。だから、もしも自分たちが3点とか4点とかリードしている場合なら、1点返されることは覚悟して、確実にアウトのカウントを稼ぐために通常の守備位置で行くケースもある。

今季のゲームを観ていると、三塁にランナーがいる場面で、明らかに去年までとは違う極端な前進守備を取るケースがある。もちろん、それぞれのチームの監督が、その場その場の状況を判断して采配しているワケだけど、どのチームの監督も日本のペナントリーグでコリジョンルールが適用されるのは初めてだから、今は「いろいろと試してみて様子を見ている」ような状況だと思う。でも、観戦して楽しんでいるあたしたちファンとしては、このコリジョンルールのことを理解した上で観ていると、「なるほど!」とか「おいおい!」とか、さらに野球を楽しむことができるようになる。


‥‥そんなワケで、このコリジョンルールには賛否両論あるけど、これは各チームの選手会も納得した上での導入なんだから、あたしが是非を論じても何の意味もない。それに、もしも何らかの大問題が起こって、将来的にコリジョンルールが廃止されることになるとしても、シーズン途中にルールが変更されることはないだろうから、少なくとも今季はコリジョンルールを楽しむしかない。三塁にランナーが進んだら、去年までとは違う各チームの守備や攻撃を楽しむしかない。そして、日本ハムの投手陣の皆さんは、今回の高橋光成のベースカバーのビデオを何度も観て、自分がホームベースにカバーに入った時の練習を繰り返してほしいと思った今日この頃なのだ。


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