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2018.04.08

性転換でギョギョギョ!

あたしは、タラコや辛子明太子が大好きで、イクラや筋子も大好きで、カズノコやトビッコも大好きなんだけど、こういう魚のタマゴを食べるたびに思うのが、その粒々の数の多さだ。この中だと、イクラや筋子は一粒がまあまあ大きいほうで、シャケ1匹のお腹に入ってる一腹(ひとはら)で2000~3000粒くらいと言われているけど、一粒が小さいタラコやカズノコになると、一腹で20万から150万粒だと言われている。たった1匹のメスだけで20万から150万ものタマゴを産むということは、海の中には何千、何万、何十万というメスがいるワケだから、そのメスたちが産んだタマゴがすべて孵化して稚魚になって成魚になったら、海の中はタラだらけ、ニシンだらけになっちゃいそうだけど、実際にはそんなことはない。

シャケは一度に2000~3000個のタマゴを産むけど、この中で成魚まで成長して生まれ故郷の川に帰ってこられるのは約0.1%、2~3匹だけで、他はすべて幼魚や稚魚のうちに他の魚などに食べられてしまったり、死んでしまったりする。タラやニシンはシャケの100倍もの数のタマゴを産むけど、それは、シャケよりも生き残れる確率が低いからで、やっぱり99.9%以上は死んでしまう。魚の中で一番多くのタマゴを産むのはマンボウで、一度に3億個ものタマゴを産むけど、これも生き残って成魚になれるのは数匹だけだ。こうしたタマゴの数は、種族保存の法則によって決められるから、天敵や環境など様々な状況によって、孵化した幼魚が生き残れる確率が低い種類の魚は、そのぶん、たくさんのタマゴを産むように進化して来た今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、何千個、何万個、何十万個、さらには何億個ものタマゴを産んでも、生き残れるのはその中の数匹だけだと聞くと、自然の厳しさと言うか、不条理さと言うか、ちょっと複雑な気分になって来るけど、水の中は危険がいっぱいだから、タマゴの数を多くするだけでなく、いろんな魚がいろんな方法で種族保存に尽力している。たとえば、サメやエイの仲間の一部や、メバルやウミタナゴなどは、タマゴを産まず、メスのお腹の中でタマゴを孵化させて、幼魚の状態になってから海水の中に放出する胎生魚(たいせいぎょ)だ。タマゴで産むよりも、このほうが生き残る確率が上がるからだ。

他にも、タマゴを天敵から守るために、マウスブルーダー(口内保育)と言って、産んだタマゴを親が口の中に入れて、口の中で孵化させる魚もいる。さらに凄いのは、アフリカのタンガニーカ湖に生息している「シノドンティス・マルチプンクタータス」という長い名前のナマズの一種だ。この魚は、自分ではマウスブルーダーをしないのに、マウスブルーダーをする他の魚のタマゴの中に自分の産んだタマゴを混ぜてしまう。すると、その魚は、自分のタマゴと一緒に、シノドンティス・マルチプンクタータスのタマゴも口の中で育てることになる。よその魚の口の中で孵化したシノドンティス・マルチプンクタータスの幼魚は、その魚のタマゴから孵化した幼魚をエサにして、どんどん成長して行く。まさに「恩を仇(あだ)で返す」とは、このことだろう。

地球上に約3万種類もいる魚たちは、こんなふうに、手を替え品を替え種族保存に励んで来たワケだけど、この約3万種類の魚たちのうち約1%にあたる約300種は、さらに凄い能力を持っている。それは「性転換」の能力だ。人間の場合、性転換と言っても、男性は女性に、女性は男性に、性別適合手術によって外観を変えるだけで、生殖機能まで変えることはできない。だけど、この性転換の能力を持った魚たちは、オスがメスに性転換してタマゴを産んだり、メスがオスに性転換してそのタマゴを受精させたりできるのだ。それも、手術とかせずに、自然にやってしまうのだ。

性転換する魚は約300種類いるけど、もともとメスだった個体がオスに性転換するものを「雌性先熟(しせいせんじゅく)」、もともとオスだった個体がメスに性転換するものを「雄性先熟(ゆうせいせんじゅく)」と呼び、他にも、オスになったりメスになったりオスになったりメスになったりと、一生に何度も性転換する忙しい種類もいる。もちろん、すべては「種族保存の最善を尽くすための性転換」なので、自分の意思とは関係なく、自分たちの特性とか、自分の生息しているエリアでのオスとメスの個体数のバランスとか、そうした状況によって自然に性転換するってワケだ。


‥‥そんなワケで、雌性先熟の中で有名なのは、ベラの一種のホンソメワケベラだ。タマゴから孵化した時はすべてがメスで、オスは1匹もいない。でも、成長して行く過程で、一番大きく成長した個体がオスに性転換して、十数匹のメスを従えてハーレムを作り、すべてのメスにタマゴを産ませて受精させる。ここで面白いのは、このオスが釣り人に釣られてしまったり、大きな魚に食べられてしまったりして、いなくなってしまった場合だ。そうなった場合には、残ったメスたちの中で一番体の大きな個体がオスに性転換して、このハーレムを引き継ぐのだ。

サクラダイも同じで、タマゴから孵化した時はすべてメスだけど、成長とともに一番大きな個体がオスに性転換して、同じようにハーレムを作る。こういう魚はけっこう多くて、他にも、ベラの仲間のキュウセン、キンギョハタダイ、マハタなど、雌性先熟の魚は多い。メジャーなところでは、皆さんお馴染みのマダイも雌性先熟だ。孵化した時はすべてメスだけど、2歳になるころにオスの精巣が成長して雌雄同体になり、4歳くらいまでにオスに性転換する個体とメスのままの個体に分かれるのだ。これは、マダイだけじゃなくて、マダイの仲間のチダイやキダイなども同様だ。だから、マダイやサクラダイなど、お祝いの席で出されるオカシラ付きの塩焼きは、2歳以下の小型のものはすべてメスということになる。

そして、逆にオスからメスに性転換する雄性先熟なのが、タイはタイでもクロダイだ。クロダイはマダイとは逆で、タマゴから孵化した時はすべてオスだ。だから、クロダイの稚魚のことを関東では「チンチン」と呼ぶのか?(笑)‥‥なんてギャグも織り込みつつ、クロダイはマダイと正反対で、2歳になるころにメスの卵巣が成長して雌雄同体になり、4歳くらいまでにメスに性転換する個体とオスのままの個体に分かれて、お互いに協力して種族保存に励むってスンポーだ。これは、クロダイだけでなく、クロダイと同じ「ヘダイ亜科」の魚に共通して見られる特性だ。

他にも、ハタ科の魚は、メスからオスへと性転換する雌性先熟だけでなく、卵巣と精巣の両方が発達した雌雄同体のまま成長する個体もあり、自分で産んだタマゴに自分で精子をかけて受精させる「自家受精」ができるので、パートナーがいなくても種族保存ができる。これって、ある意味、種族保存に関しては無敵だよね?水族館に行って一番大きな巨大水槽を観ると、よく、ハタ科の大きな魚が1匹だけで泳いでいたり、岩の横で1匹だけで休んでいたり、いつも寂しそうだなって思っていたけど、ハタ科の魚が単独行動を好む背景には、こんな特性があったからかもしれない。

ハタ科の魚は、アカハタやアオハタやキジハタなど30~40センチほどのものから、マハタやクエ(モロコ)など1メートルを超えるものもあり、中でもタマカイは最大で体長3メートル、体重400キロまで成長する。ちなみに、タマカイの飼育研究をしている「沖縄県水産海洋研究センター」のレポートを読んでみたら、体重が16キロに達したあたりで雌性成熟し、全長120センチ、体重40キロで雄性成熟したと書かれていた。つまり、孵化した時はすべてメスで、体重が16キロくらいまで成長すればメスとして成熟するのでタマゴを産むことができるようになり、さらに成長して体重が40キロくらいまで成長すると、今度はオスとしての精巣が成熟して、メスの産んだタマゴを受精させられる個体が現われ始める、ということだ。


‥‥そんなワケで、他にも性転換する魚はたくさんいるけど、最大で3メートルにもなるタマカイを紹介したので、今回は最後に、小さくて可愛い魚を2種類だけ紹介しようと思う。まずは、すごくメジャーなカクレクマノミだ。映画『ファインディング・ニモ』で有名になった、あのオレンジ色の可愛い魚だ。カクレクマノミは、その名の通り、ふだんは毒性のあるイソギンチャクの中に隠れて自分の身を守っているけど、先ほど紹介したクロダイと同じで、生まれた時はすべての個体がオスなのだ。

その前に紹介したホンソメワケベラは、生まれた時はすべてメスで、一番大きく成長した個体がオスに性転換するって書いたけど、カクレクマノミはその逆で、生まれた時はすべてオスで、一番大きく成長した個体がメスに性転換して、二番目に大きかったオスとペアを組んで、子どもを作る。ホンソメワケベラは一夫多妻のハーレムだったけど、カクレクマノミは一夫一妻なのだ。あの可愛らしい外観で一夫多妻のハーレムだったらギャップがあり過ぎるので、一夫一妻で良かったと思う(笑)

でも、最後に紹介するチョークバスは、カクレクマノミと同じく暖かい海のサンゴ礁に住む8センチほどの魚で、赤茶色に明るい水色のシマシマがある可愛らしい魚なのに、性生活のほうはかなりぶっ飛んでいる。この魚も一夫一妻なので、たくさんのメスをはべらせているホンソメワケベラよりはマジメそうに思えるけど、問題なのは、その生殖行動だ。チョークバスは、ハタ科の一部の魚のように雌雄同体なんだけど、ハタ科の一部の魚のように「自家受精」はできない。だから、雌雄同体でありながらパートナーがいないと子どもを作ることができない。自分がオスの生殖能力もメスの生殖能力も兼ね備えているのに、「自家受精」ができないからパートナーが必要だなんて、けっこう、ややこしい魚だと思う。

で、そんなチョークバスがどんなふうに種族保存をしているのかっていうと、産卵期間に入ったチョークバスは、とにかく必死になってパートナーを見つける。そして、パートナーが見つかると、そのパートナーの産んだタマゴに精子をかけて受精させる。ま、ここまでは普通だけど、ここから先が驚いてしまう。今度は、自分がタマゴを産み、パートナーに精子をかけてもらうのだ。そして、またまた今度はパートナーがタマゴを産み、それに自分が精子をかける。つまり、このチョークバスのカップルは、お互いがオスになったりメスになったりオスになったりメスになったりしながら、産卵と受精を繰り返して行く。そして、それを、なんと1日に20回も繰り返す。それも、何カ月もの間、来る日も来る日も繰り返すのだ。

たとえば、「今日はボクが男役をやるから君は女役になってね」なんて感じで愛し合い、翌日は役割を交代する、というのなら分かるけど、1日に20回も男役と女役を交互につとめ、それを何カ月も続けるなんて、普通に考えたら絶対に無理だろう。たとえば、性転換せずに、ずっとメスのままでも、1日に10回もタマゴを産んで、それを何カ月も続けるなんて無理だし、ずっとオスのままでも、1日に10回も射精して、それを何カ月も続けるのは無理だ。

それなのに、その両方を交互にやり、それを何カ月も続けるなんて、とてもじゃないけど想像できない。それなのに、体長がわずか8センチしかないチョークバスが、こんなにも激しすぎる生殖行動をしているなんて、自然てホントに不思議だと思う。そして、この「お互いの産んだタマゴをお互いが受精させる」という面白い生殖行動は、研究者によって「エッグ・トレーディング(卵の取り引き)」と呼ばれている。

チョークバスが、どうしてこんな生殖行動を取るようになったのかと言うと、メスとして産卵だけを続けるよりも、オスとして受精だけを続けるよりも、こうして両方の役割をつとめたほうが、自分の遺伝子を子孫に残せる確率が高くなるからだと言われてる。また、片方がメスのまま、片方がオスのままだと、パートナーにあぶれたオスが割り込んで来て、メスを奪われてしまうケースが多発するそうだ。こうして双方がオスになったりメスになったりすることで、他の個体が割り込んで来る機会を減らす効果もあると言われている。


‥‥そんなワケで、チョークバスの生殖行動の研究を続けている海外の水族館の研究者の論文を読むと、個体ごとにマーキングして観察したチョークバスのすべてのペアが、6カ月もの間、自分のパートナーとしか愛し合わなかったと報告されている。こうした観察結果を知ると、芸能界からスポーツ界から政治の世界に至るまで、絶え間なく不倫のゴシップが流れて来る人間よりも、わずか8センチの魚のほうが、遥かに立派な倫理観を備えているように思えて来る。これは、やはり、種族保存のための神聖なる生殖行為と、快楽のためのセックスとの違いなのだろうか?‥‥なんてことを考えながら、軽く炙った辛子明太子をつまんで、泡盛のロックを口に含んだら、何となく海の香りがしたような気がした今日この頃なのだ(笑)


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