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2018.05.26

カッシーニに思いを馳せて

NASA(アメリカ航空宇宙局)とESA(欧州宇宙機関)が共同開発し、1997年に打ち上げられ、土星に到着してから約13年間にわたって調査し続けた探査機「カッシーニ」が、昨年9月15日、「土星突入」という最後のミッションを終えた。「カッシーニ」は、高さ約7メートル、幅約4メートル、重さ約6トン、乗用車4台分くらいの大きさの探査機なんだけど、このまま宇宙空間に放置すると宇宙ゴミになってしまうし、どこかの衛星に不時着させるとボディーに付着した微生物を持ち込むことになってしまうため、土星に突入させて大気との摩擦で、崩壊・消滅させるという悲しい最後のミッションだった。

でも、「カッシーニ」は、最後の最後まで、美しく貴重な画像を地球へと送り続けてくれた。最後に届いた画像は、あたしもNASAの公式HPで観たけど、土星の最大の衛星であるタイタンはモヤが掛かっていて美しかったし、氷の衛星エンケラドスの三日月は、まるで笑っている目のように見えた。だけど、「カッシーニ」が送った土星からの信号をオーストラリアの電波望遠鏡が捉えるのは発信から83分後だから、これらの画像が地球に届いた時には、もう「カッシーニ」は消滅していたのかもしれない。そう思うと、何とも言えない悲しい気分になった。

ちなみに、「カッシーニ」という名前は、ガリレオ・ガリレイと同じく17世紀に活躍したイタリア出身のフランスの天文学者、パリ天文台の初代台長でもあったジョヴァンニ・カッシーニの名前が由来だ。ジョヴァンニ・カッシーニは、土星の4つの衛星、イアペトゥス、レア、ディオネ、テティスを発見しているので、敬意をはらって土星探査機の名前にしたんだと思う今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、昨年9月15日、土星に突入する直前に「カッシーニ」が送ってくれた最後の画像に写っていた衛星タイタンは、ギリシャ神話の巨神族「ティターン」から名づけられたもので、エンケラドスはギガース族の1人の名前だ。土星には確認されているだけでも63個もの衛星があるけど、その中で最大のタイタンは、直径が約5150kmもある巨大な衛星で、太陽系の惑星の衛星の中で最大である木星のガニメデ、直径約5262kmに次いで、2番目に大きい衛星だ。太陽系の惑星の直径をザックリ紹介すると、水星が約4879km、金星が約12104km、地球が約12742km、火星が約6779km、木星が約139822km、土星が約116464kmなので、土星のタイタンや木星のガニメデは、衛星なのに惑星である水星よりも大きいのだ。

土星は英語で「サターン」だけど、これはローマ神話の神「サートゥルヌス」を英語読みしたもので、ギリシャ神話だと「クロノス」になる。このクロノスは巨神族ティターンだったので、土星最大の衛星が「タイタン」と名づけられたのだ。あたしの大好きなギリシャ神話では、このクロノスと妻のレアの間に生まれた子どもの1人が、全知全能の神、ゼウスで、ゼウスの妻はヘラだ。このゼウスとヘラという夫婦は、ローマ神話にでは[ユーピテル]と「ユノ」になり、ユーピテルを英語読みすると「ジュピター」、そう、木星だ。そして、ユノを英語読みすると「ジュノ」で、これは「6月」を意味する「ジューン」の語源になっている。何故かと言うと、ユノは「結婚をつかさどる女神」なので、「ジューン・ブライド(6月の花嫁)」という言葉が生まれる前から、すでに6月は「結婚の女神の月」だったのだ。

全知全能の神であり、相手が神でも人間でも女でも男でもセックスしまくったゼウス、そんなゼウスの名前に由来した木星にも、さっき紹介した太陽系最大の衛星であるガニメデを始め、たくさんの衛星がある。これまでに確認された木星の衛星は、土星の63個よりも多い69個だ。そして、その中で最大なのが、さっきも書いたように、太陽系の惑星の衛星の中で最大のガニメデだけど、これは、ゼウスの愛人の1人と言われている美少年「ガニュメーデース」が由来だ。書籍によっては、ガニュメーデースは単なる給仕係だという記述のものもあるけど、一般的には愛人の1人だと言われている。

このガニメデを始め、イオ、エウロパ、カリストという大きな4つの衛星は、すべて1610年にガリレオ・ガリレイが望遠鏡で発見したものなので、この4つを「ガリレオ衛星」と呼んでいる。そして、これらはすべてゼウスの愛人の名前が由来なのだ。でも、それぞれの愛人との神話は、それぞれがとても長くて複雑なので、ザックリとあらすじだけ紹介する。

まずはイオだけど、絶世の美女、イオのところへゼウスがセッセと通っていたため、ゼウスの妻のヘラは「これは怪しい」と疑いを持つ。すると、それを察知したゼウスは、イオをメスの牛に変えてしまい、「俺は牛を可愛がっているだけだ」なんて言ってシラを切った。それでも怪しいと思ったヘラは、その牛に見張りをつけたりしたんだけど、なんやかんやがあって、最終的には、その牛はヘラの放ったアブに追われてエジプトまで逃げて行き、そこで人間の姿に戻り、妊娠していたゼウスの子を産むという、ナニゲに『ジョジョの奇妙な冒険』の第3部のようなお話だ。

それから、エウロパは美しいお姫さまで、ゼウスはエウロパをナンパするために、今度は自分が白い牛に変身する。そして、お花を摘んでいたエウロパに近づくと、エウロパは「まあ、美しい牛だわ」と言って背中に乗ってしまう。心の中で小さくガッツポーズをしたゼウスは、そのまま走ってクレタ島までエウロパを連れ去り、ここで元の姿に戻ってセックスしてしまうのだ。ちなみに、この時、白い牛になったゼウスは、背中にエウロパを乗せたままヨーロッパ中を走り回ったとされているため、この「エウロパ」から「ヨーロッパ」という地名が生まれたのだ。

最後にカリストだけど、この娘は女神アルテミスの従者だった。でも、アルテミスに負けないくらいの美女だったため、さっそくゼウスに目を付けられちゃう。カリストは処女で男性を警戒していたから、今度はゼウスは女神アルテミスに変身してカリストに近づき、カリストが気を許した瞬間に元の姿に戻ってセックスしてしまう。そして、カリストは、何カ月後かにアルテミスの付き添いで沐浴をした時に、妊娠して膨らんだお腹を見られてしまい、純潔を尊ぶアルテミスの怒りを買って、醜いクマに変えられてしまう‥‥というパターンと、ゼウスの浮気を知った妻ヘラの怒りを買って、醜いクマに変えられてしまう‥‥というパターンがあるんだけど、どっちにしても、ゼウスのせいで醜いクマに変えられてしまったのだ。

こんなふうに、ゼウスの名前を由来とした木星の衛星には、ゼウスの愛人の名前が付けられているものがいろいろある他、ゼウスの前妻の名前が付けられているものもある。ゼウスの妻はヘラだけど、最初の妻はメティス、次の妻はテミストで、どちらも木星の衛星だ。そして、愛人の名前が付いた衛星の中では、何と言ってもあたしはレダが好きだ。あたしは、「三大流星群」の中では、12月の半ばに見られる「ふたご座流星群」が一番好きなんだけど、この「ふたご座」の双子のカタワレが、ゼウスと愛人レダの子どもなのだ。


‥‥そんなワケで、「えっ?双子なのにカタワレって、どういうこと?」と思っただろうけど、実は「ふたご座」の双子は、双子じゃないのだ。これは、以前にも『きっこのブログ』で詳しく書いたから、今回は簡単に説明するけど、絶世の美しさを誇っていたレダは、スパルタ国の王妃だった。王妃ということは、スパルタ国王ティンダリオスの奥さんてワケだけど、人妻であろうと王妃であろうと百戦錬磨のゼウスにとって不足はない。ゼウスは愛の女神アフロディーテに相談して、自分が白鳥に、アフロディーテがワシに、それぞれ変身して、レダの見ている前で「ワシに襲われている白鳥」を演じる作戦を思いついた。そうすれば、心のやさしいレダは、必ず白鳥に変身したゼウスを助けてくれると思ったからだ。

そして、この作戦はマンマと成功した。でも、この時のゼウスは、いつものように元の姿に戻ってからセックスしたんじゃなくて、白鳥の姿のまま、やりまくっちゃった。この時の様子は、レオナルド・ダ・ビンチの絵画『白鳥とレダ』に描かれているけど、この絵で、裸の美女にすり寄ってるエロい白鳥がゼウスなのだ。そして、白鳥の姿のゼウスとセックスしたレダは、この日の夜、自分の夫であるスパルタ国王のティンダリオスともセックスして、その後、2個のタマゴを産んだ。でも、これが問題で、1個はゼウスとのタマゴで、もう1個はティンダリオスとのタマゴだったのだ。この2個のタマゴは、どちらも黄身が2つある双子のタマゴで、ゼウスとのタマゴからは「ポルックス」という男の子と「ヘレネ」という女の子が生まれ、ティンダリオスとのタマゴからは「カストル」という男の子と「クリュタイムネストラ」という女の子が生まれた。

まあ、ゼウスのほうは白鳥に変身したままセックスしたから、タマゴが生まれてもいいとしても、人間のティンダリオスの子どもまでタマゴで生まれるなんて、どうも納得できない。でも、そんなことを言い出したら、ギリシャ神話なんてツッコミどころが満載だから、ここはスルーして先へ進むとして、この4人の子どもの名前からも分かるように、「ふたご座」の双子とは、ゼウスのタマゴから生まれた男の子「ポルックス」と、ティンダリオスのタマゴから生まれた男の子「カストル」なのだ。「ふたご座」は、その名の通り、2人の男性が並んでいる星座だけど、頭の部分に明るい星が2つ並んでいて、向かって左が「ポルックス」、右が「カストル」だ。

いくら一度に産んだタマゴだとは言え、お父さんも違うんだし、出てきたタマゴも違うんだから、この2人を双子だというのは無理がある。でも、2人とも「ゼウスの子」として育てられたので、便宜上、双子ということにしたワケだ。そして、この神話には、まだ続きがある。ゼウスは神だから、人間であるレダとの間に生まれたポルックスにも半分は神の血が流れているため、ポルックスは神と同じで不死身だった。一方、両親ともに人間のカストルは普通の人間だから、いつかは死んでしまう。そのため、立派な青年に成長したカストルは、ある戦いで戦死してしまった。

カストルの死を誰よりも悲しんだのは、生まれた時から一緒に育てられてきたポルックスだった。ポルックスは、全知全能の神である父、ゼウスのもとを訪ねて、「自分の不死身の体の半分をカストルに与えて欲しい」とお願いをした。ゼウスは、兄弟を思う我が子の気持ちに胸を打たれ、その願いを受け入れた。ポルックスとカストルの2人は、不死身の神の体と、普通の人間の体とを、2人で半分ずつ共有できることになり、カストルは生き返ったのだ。そして、抱き合って喜ぶの2人の兄弟愛に感動したゼウスは、ポルックスとカストルの姿を「ふたご座」として夜空に祀った。

ちなみに、「ふたご座」は英語で「ジェミニ」だけど、語源はギリシャ語の「ディオスクロイ」で、これは「ゼウスの子」という意味だ。ゼウスには、あちこちの女神や人間の女性に産ませた子どもが数えきれないほどいるけど、その中で「ゼウスの子」と名づけられた星座は、このポルックスとカストルの「ふたご座」だけなのだ。そう考えると、本当はポルックスのほうしかゼウスの子どもじゃないのに、本当は双子でもないのに、この星座に「ふたご座」という和名をつけた日本人のセンスも、なかなかのものだと思った。そして、この2人を産んだ母親のレダは、今も遠く2人を見守る衛星となって、木星というゼウスの周りを回り続けている。


‥‥そんなワケで、今月5月は来週の火曜日の29日が満月だけど、この日は月齢が「13.6」なので、より真円に近いお月さまは月齢が「14.6」の30日で、月齢が「15.6」の31日もほぼ満月が観られる。ようするに、5月の29日、30日、31日の3日間は、どの日でも美しいお月さまが観られるから、お天気が良くなったら、ぜひ、地球の唯一の衛星であるお月さまを見上げてみてほしい。そして、もしも望遠鏡か双眼鏡を持っていたら、明るく美しい月面を拡大して観てほしい。地球から観た月面の左上、北西の位置にシミのように広がる「雨の海」の右端に、上にプラトー、下にアルキメデスやアリストテレスなどの大きなクレーターがあり、その真ん中のアルプス山脈の南端の辺りに観える二重のクレーターが、土星探査機「カッシーニ」と同じく、17世紀の天文学者、ジョヴァンニ・カッシーニにちなんで名づけられたクレーター「カッシーニ」なのだ。だから、望遠鏡や双眼鏡を持っていない人も、お月さまの左上に広がる黒っぽいシミのような部分が肉眼でも観える「雨の海」なので、その右端辺りに、クレーター「カッシーニ」があると思ってお月さまを愛でて、土星に突入して消滅した探査機「カッシーニ」に思いを馳せてほしいと思う今日この頃なのだ。


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