進化するカツオクジラの捕食
今年2月のこと、約50年前に大阪市の地下工事中に見つかったミンククジラの化石が、大阪市立自然史博物館の研究チームによる再調査の結果、ミンククジラより希少なカツオクジラだったことが分かり、海外の古生物学術誌に論文が発表されたと報じられた。この化石は、1966年に大阪市東成区の地下鉄今里駅周辺の工事中に、地下約14メートルの地層で発見されたもので、1976年に「縄文時代のミンククジラの化石」と発表されていたものだ。でも、これがカツオクジラだったと分かったことで、古生物関連界隈では大きなニュースとなった。それは、カツオクジラの化石の発見が世界で初めてだったからだ。
この化石はDNA検査ができない状態だったため、研究チームは、クジラの形態に関する近年の新たな研究成果に照らし合わせて分析し、口先の幅の広さや頭の骨の一部が四角く大きいことなどから、ミンククジラと同じヒゲクジラ亜目に分類されているカツオクジラだと判断したそうだ。だから「動かぬ証拠」とまでは行かないけど、明らかに頭の骨の形状が違うため、カツオクジラと断定されたという。
カツオクジラは日本を含む世界各地の海に生息しているけど、個体数が少ないために希少種とされているそうだ‥‥と、ここまでは普通に書いてきたけど、皆さんは「カツオクジラ」と聞いて、どんなクジラなのか、その姿を頭の中にパッと想像できただろうか?もしかして「形状や色などがカツオに似たクジラ」を想像した人もいるんじゃないかと思った今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、カツオクジラの「カツオ」は、イワシクジラの「イワシ」と同じで、イワシの群が一緒に泳いでいるのがイワシクジラ、カツオの群が一緒に泳いでいるのがカツオクジラというワケだ。これは、ジャイアンの後ろにスネオが隠れているように、ドナルド・トランプの後ろに安倍晋三が隠れているように、大きなクジラにくっついて泳いでいれば自分たちが安全だということらしい。
もともと、イワシクジラとカツオクジラとニタリクジラはゴッチャにされていて、同じ種類のクジラだと思われていた。イワシの群が一緒に泳いでいるのイワシクジラと、カツオの群が一緒に泳いでいるのカツオクジラは、同じ種類のクジラで、一緒に泳いている魚が違うだけだと思われていた。でも、後に、外観は似ていても別の種であることが分かり、それぞれの名前で呼ばれるようになったのだ。ちなみに「ニタリクジラ」という名前は、このクジラがイワシクジラと別種であることを発見した日本捕鯨協会鯨類研究所の大村秀雄博士が、このクジラが古来「ナガスクジラに似たイワシクジラ」という意味で「似たり鯨」と呼ばれていたことから、これをそのまま日本での正式名として命名したものだそうだ。
この3種のクジラは、かつてゴッチャにされていたことからも想像できるように、外観はよく似ている。そして、この3種はいずれも「ナガスクジラ科ナガスクジラ属」なので、「世界最大の哺乳類」としてお馴染みのシロナガスクジラにも似ている。ただ、大きさはぜんぜん違う。どのくらい違うのかというと、クジラはオスとメスとで大きさが違うし、個体差もあるし、大きすぎて正確な数字が分からないものもあるけど、現在までに確認されたクジラ類それぞれの最大の個体の大きさのトップ20をランキング形式で発表すると、以下のようになる。
1位 シロナガスクジラ 34m 190t
2位 ナガスクジラ 26m 80t
3位 タイセイヨウクジラ 18.5m 105t
4位 ホッキョククジラ 18m 100t
5位 ミナミセミクジラ 18m 90t
6位 セミクジラ 18m 80t
7位 マッコウクジラ 18m 50t
8位 ザトウクジラ 18m 40t
9位 イワシクジラ 18m 30t
10位 コククジラ 15m 33t
11位 ニタリクジラ 15m
12位 カツオクジラ 14m
13位 ツチクジラ 13m 14t
14位 ツノシマクジラ 12m
15位 ミナミツチクジラ 12m 14t
16位 クロミンククジラ 11.6m 10t
17位 キタトックリクジラ 11.2m 7.5t
18位 ミンククジラ 10.7m 8t
19位 シャチ 9.8m 10t
20位 ミナミトックリクジラ 7.5m
重さに関しては分かったものだけ書いたけど、いろいろなデータを集めてからまとめたので、よく分からない点もある。たとえば、体長が同じ「18m」なのに、ホッキョククジラは体重が「100t」もあり、イワシクジラは3分の1以下の「30t」しかない。同じクジラなのに、Aのデータでは「18m 50t」、Bのデータでは「16m 55t」だったりして、まるで安倍晋三が「総理のご意向」で厚労省に作成させた裁量労働制の捏造データみたいだったので、一応、複数のデータの中で最大のものを選んだんだけど、そしたら怪しくなってしまった(笑)
だから、体重のほうは、あくまでも参考程度に見てもらうとして、体長に関しては複数のデータの中から同一のものを選んだので、ほぼ間違いないと思う。それから「シャチ」が19位に入っているけど、もともとはイルカもシャチもクジラも同じ仲間で、ザックリと「体長4m以下のものはイルカ、それ以上のものはクジラ」という分け方なので、ここではシャチをクジラとして扱った。このイルカとクジラの区別についても、「体長3m」をラインにしてるものや「体長5m」をラインにしてるものもあったけど、「体長4m」という記述のものが一番多かったので、ここではそれを紹介した。
‥‥そんなワケで、そのシャチは、大きさではクジラの分類になるけど、見た目はクジラよりもイルカに近い。カマイルカを大きくして白黒のパンダカラーにしたのがシャチって感じだ。あたしは、大好きな「鴨川シーワールド」でシャチのショーを何度も観ているけど、やっぱりイルカのショーとは迫力が違う。これは、大きさが違うというだけでなく、シャチは凶暴で人間を襲ったりもするからだ。いくら世話をして懐いているとは言え、シャチと同じプールに飛び込み、シャチの背中に乗ったりする飼育員のお姉さんたちは、あまりにも男前すぎる。
そして、シャチ以外のクジラたちは、大きさこそ違えど、だいたいみんな似たような外観をしている。トックリクジラは、おでこが出っ張っていてバンドウイルカに似た顔をしているけど、全体を見ればクジラであることが分かる。ただ、7位にランキングしたマッコウクジラ、これだけは頭が異様に大きくて、他のクジラたちとは大きく違った外観をしている。ほとんどのサメが似たような顔つきをしている中で、英語で「ハンマーヘッド(とんかち頭)」と呼ばれているシュモクザメだけが特異なように、クジラ界ではマッコウクジラだけが特異な顔つきをしている。
その上、このマッコウクジラは、他のクジラたちとは違って、深海にまで潜ってダイオウイカを捕食したりするので、大きなマッコウクジラに大きなダイオウイカが巻き付いて対決してる写真や映像を観たことがある人もいると思う。ちなみに、マッコウクジラの「マッコウ」とは、漢字で「抹香」と書く。沈香(じんこう)や栴檀(せんだん)や樒(しきみ)などの香木の樹皮や葉などを粉末状にした「お香」のことだ。古来から珍重されてきたお香の中に「龍涎香(りゅうぜんこう)」というのがあるんだけど、英語では「アンバー」、香水などで聞いたことがある人も多いと思う。
で、この龍涎香は、海岸に打ち寄せられたり海を漂っていたりする不思議な物体で、どうして生まれるのか分からなかったため、古来中国では「龍の垂らした涎(よだれ)の結晶」だと思われていて「龍涎香」と名づけられた。でも、後に捕鯨が行なわれる時代になると、捕獲したマッコウクジラの腸内から、たまにこの龍涎香が出てくるケースがあったので、龍涎香はマッコウクジラの腸内で作られた結石が排泄時に海中へ放出されたものだと解明された。そして、その香りが「抹香」に似ていたため「抹香鯨(まっこうくじら)」と名づけられたのだ。
さて、マッコウクジラが自分と同じくらいある巨大なダイオウイカを捕食できるのは、自慢の強靭な歯があるからだ。一方、マッコウクジラの倍近い大きさのシロナガスクジラは、プランクトンや小魚のような小さなものしか食べないけど、それは、歯がないからだ。現生するクジラ類は、ヒゲクジラ亜目とハクジラ亜目に大別されているんだけど、マッコウクジラはハクジラ亜目の最大のクジラで、立派な歯があるから大きなエサも食べられる。でも、歯の代わりに「クジラヒゲ」と呼ばれる板状のものがブラシのように生えてるシロナガスクジラなど、ヒゲクジラ亜目のクジラたちは、海水と一緒にプランクトンや小魚の群を飲み込み、口を軽く閉じてクジラヒゲの間から海水だけを吐き出し、口の中に残ったエサを飲み込む。つまり、クジラヒゲとは、捕食のための濾過フィルターというワケだ。
‥‥そんなワケで、このクジラヒゲ、丈夫で弾力性があって加工しやすいため、古くからいろいろな道具や装飾品などの材料として利用されてきた。特に、まだプラスチックやグラスファイバーなどが開発されるまでは、とても重宝されてきた。有名なのは「釣竿の穂先」で、これはあたしも釣具屋さんで見たことがあるけど、グラスファイバーやカーボンの釣竿がメインになった現代でも、穂先の部分だけはクジラヒゲを使った釣竿も作られている。他には、西洋では女性のウエストを細くするための矯正下着であるコルセットの骨組みや、ドレスのスカート部分を膨らませる骨、傘の骨などとしても使われていたし、日本では武士の裃(かみしも)の肩をピンと張らせるための骨としても利用されていた。また、クジラヒゲは板状の繊維なので、「割けるチーズ」のように細く割くことができる。一番細くすると強度のある紐になるので、刀の握りの部分を巻くための紐としても利用されていたという。
他に有名なのは、永六輔さんが生前に重要性を訴えていた「鯨尺(くじらじゃく)」がある。別名「呉服尺」とも呼ばれるモノサシで、普通の1尺は約30cmだけど、「鯨尺」の1尺は普通の1尺2寸5分に相当するため、約38cmになる。永六輔さんは「鯨尺」そのものではなく、この伝統的な「単位」の重要性を訴えていたのだ。他にも、弾力性と反発性に優れたクジラヒゲは、きしめん状にしたものをクルクルと巻くと「ぜんまいバネ」になるので、江戸時代には「からくり人形」の動力に使われていた。クジラヒゲは装飾品などにも使われていたけど、その多くは、強度や反発力などの特性を生かして実用品に利用されていた。
こんなに便利なクジラヒゲは、クジラの体長の違いだけでなく、捕食するエサの種類によっても長さや厚みなどが違ってくる。クジラヒゲの長さは、シロナガスクジラが1~1.5m、ナガスクジラが60cm~1m、イワシクジラが約60cm、ミンククジラが約30cmなんだけど、シロナガスクジラやナガスクジラよりも小さいホッキョククジラやセミクジラは、クジラヒゲが2mもある。これは、オキアミなどの小さいプランクトンなどをメインのエサにしているため、濾過フィルターであるクジラヒゲが発達したものと思われる。一方、ナガスクジラの仲間たちは、捕食するメインのエサがイワシなどの小魚なので、そこまで長いクジラヒゲは必要としない。
そんなヒゲクジラ亜目のクジラたちだけど、どんなふうに捕食をしているのかというと、基本的には、小魚の群を見つけると海面へと追い込み、体を横に半回転しながら口を大きく開けて小魚の群を海水ごと飲み込み、口を軽く閉じてクジラヒゲの間から海水を吐き出し、口の中に残った小魚を飲み込む、というパターンだ。どうして、海面へと追い込むのかというと、海中にいる群に突進しても小魚たちは四方八方へ散らばって逃げてしまうため、思ったほど口の中に入らないからだ。そこで、上には逃げることができない海面へと追い込み、それから襲い掛かるワケだ。その上、クジラは体を半回転させながら襲い掛かるので、上から見て口がV字型になるから、より多くの小魚を口に入れることができるのだ。これが一般的なヒゲクジラの捕食だけど、中には素晴らしいチームプレイを見せるものもいる。
たとえば、ザトウクジラの場合、「バブルネットフィーディング」という独特の漁を行なうことが知られている。小魚の群を見つけると、数頭から数十頭のチームで小魚の群の周りを大きく回って一カ所に追い込み、長いヒレを使って取り囲む。そして、1頭のクジラが魚の群の下に潜って大きな声を出し、驚いた魚の群が海面に逃げると、今度は別のクジラたちが泡を吐き出しながら旋回して「バブルネット(泡の網)」を作って魚の群を閉じ込め、みんなで口を開けて海面へ飛び出して一気に飲み込んでしまうのだ。
イワシクジラの場合は、ザトウクジラと同じようにイワシの群の周りをグルグルと回るんだけど、食べ方がちょっと違う。クジラが捕食行動に出ると、イワシたちは危険を感じて、海中で一カ所に集まって大きな球状になる。「フィッシュボール」と呼ばれているもので、絵本の『スイミー』のように自分たちを「大きな生き物」に見せる意味もあるんだと思う。だけど、それを知っているイワシクジラは、イワシたちが一カ所に集まって「フィッシュボール」を作ると、そこに向かって口を開けて突進して、大量のイワシを口の中に入れ、クジラヒゲの間から海水を吐き出すのだ。これは、クジラの中でも泳ぐ速度が最速であるイワシクジラが得意とする方式で、他のクジラがこれをやっても、泳ぐ速度が遅いから口には少しのイワシしか入らない。たくさんのエネルギーを消費しても少しのイワシしか口に入らないから、今どきの表現で言えば「コスパが悪い」ということになる。
そして、カツオクジラの場合は、何でカツオの群と一緒に泳いでいるのかと言えば、カツオのエサがイワシだからだ。ようするに、カツオと一緒に泳いでいれば、カツオはイワシの群を見つけてくれるから、その時にご相伴に預かることができる‥‥というか、まとめて横取りしちゃう作戦だ。だけど、同じ種類のクジラでも、生息域によって独自のスタイルがあるようで、カツオでお馴染みの高知県の土佐湾に生息するカツオクジラたちは、ザトウクジラと同じ「バブルネットフィーディング」を行なうことが知られている。そのため、『四国一周ブログ旅』で稲垣早希ちゃんも観に行っていたけど、高知県では「ホエールウォッチング」が盛んだ。
‥‥そんなワケで、自分の生息域に合わせて捕食方法を変えるとしても、単独行動ではなくチームプレイなのだから、イルカのように水中で音波を出して仲間たちと交信しながら行なっているのだろう。そう考えると、カツオクジラは、もしかすると磯野カツオと同じくらいの知能があるのかもしれない(笑)‥‥なんて思っていたら、昨年11月に、本当にそう思えるような調査結果が発表されたのだ。日本の東京大学の大気海洋研究所、イギリスのセントアンドリュース大学の大気海洋研究所、中央水産研究所、タイ沿岸資源研究所、プーケット海洋生物研究所による共同研究チームが、タイ中部のタイ湾に生息するカツオクジラを調査していたんだけど、その結果、面白い捕食行動を発見したとして、アメリカの生物学専門学術誌『Current Biology(カレント・バイオロジー)』に論文が発表されたのだ。
この共同研究チームの調査対象は31頭のカツオクジラで、複数の個体の複数個所にダイバーがセンサーを吸盤で取り付けて、水中での体の向きなども分かるようにして調査したそうだ。論文を直訳して書き写すと長い上に分かりにくいので、あたしなりに簡単に紹介するけど、タイ湾のカツオクジラたちは、小魚の群を見つけると、そのすぐ近くで尾ビレや胸ビレを使って上手に「立ち泳ぎ」をして、海面に大きな口を開けたままジッとしている。すると、危険を感じて海面を逃げ惑う小魚たちはピョンピョンと跳ねるから、何割かはクジラの口の中に飛び込んでしまうのだ。あたしは「立ち食いそば」が大好きで、よく「ゆで太郎」に行くんだけど、まさかタイのカツオクジラたちも「立ち食い」をしていたなんて(笑)
31頭のカツオクジラたちの捕食を計58回観察したところ、口を開けている時間は平均14.5秒で、それでもけっこうな小魚が口に入るため、自分から小魚の群に突進して捕食する従来の方式よりも、口を開けて待っているだけのこちらの方式のほうが、エネルギーを使わない「省エネ捕食」だということに、ここのカツオクジラたちは気づいたワケだ。論文によると、近年のタイ湾は生活排水などによって富栄養化が進み、一定の深さから下は酸素不足になっているという。そのため、カツオクジラのエサとなる小魚たちは、必然的に海面の近くにしか生息できなくなった。さらには、小魚たちの数も減少傾向にあるため、エネルギーを使って襲い掛かる従来の方式だと、思ったほどの小魚を捕食できなくなったそうだ。そこで、なるべくエネルギーを使わずに効率よく捕食する方法として、海面で口を開けて待っている方式に変えたようだ。
そして、あたしが何よりも感心したのは、この「立ち泳ぎ」による受動的な捕食スタイルを行なっていたのが、大人のカツオクジラのケースだけでなく、大人と子どものペアでのケースも多かったという点だ。共同研究チームは、これは「親子ペア」で、親が子どもにエサの採り方を学習させているのだと指摘している。一般的なヒゲクジラの捕食、海面の小魚の群に襲い掛かる捕食はものすごい迫力なので、海面に口を開けてジッとしているだけのこの方式は、実際に映像で観てみると、ちょっと間抜けな感じもする。だけど、自分たちの生息している海域の環境変化に合わせて、できるだけエネルギーを使わずに効率よく捕食できる方法を自ら考え出し、それを子どもたちに学習させていたなんて、もしかしてカツオクジラたちは、「磯野カツオと同じ」どころか、安倍晋三や麻生太郎よりも遥かな高い知能を持っているんじゃないのか‥‥なんて思った。
‥‥そんなワケで、今回は最後に、カツオクジラの「立ち泳ぎ」による受動的な捕食の貴重な映像と、海面の小魚の群を丸飲みする通常の能動的な捕食の映像を紹介したいと思う。能動的な捕食の映像はドローンによる撮影なので、体を半回転させながら小魚の群を丸飲みするクジラの姿がよく分かる。「立ち泳ぎ」の映像はちょっとマヌケだけど、通常の捕食の映像はとても素晴らしいので、ぜひ観てみてほしいと思った今日この頃なのだ♪
「カツオクジラの立ち泳ぎの捕食」
「カツオクジラの通常の捕食」
| 固定リンク
« 時空を超えたソデ不倫 | トップページ | 母の日 »