アメリカ英語とイギリス英語
あたしは未婚だし子どもがいないから、最近の学校教育のことはぜんぜん分からないけど、しばらく前に「小学校から英語の授業が始まる」というニュースを耳にしたような記憶があったので、先日、その記事をネットで探して読んでみたら、もうすでに小学校での英語の授業は5年生から始まっていて、それを3年生に前倒しするというニュースだった。そして、その記事をよく読んでみたら、小学5年生からの英語の授業は、10年も前の2008年から始まってたということを知った。
あたしの場合は、同世代の皆さんと同じく中学校に上がってから初めて英語を教わったワケで、たしか「ニューホライゾン」とかいう教科書だった。そして、中学校で3年間、高校でも3年間、計6年間も英語を習ったのに、ぜんぜんしゃべれないし、学校の授業なんてクソの役にも立たなかった。でも、高校時代のあたしは、バンドをやっていたこともあって、辞書を引きながら好きな洋楽の歌詞を和訳したりしているうちに、英語がだんだん好きになり、英語の小説とかも辞書を引きながら読むようになり、字幕付きの洋画もヒアリングしながら観るようになった。
そして、独学でいろいろと英語と接しているうちに、英語がペラペラの帰国子女の先輩から「英語を独学で勉強するなら、対訳が付いたシェイクスピアの戯曲が一番身に付くよ」というアドバイスをいただいたので、薦められるままにシェイクスピアの戯曲を読み始めた。対訳付きと言っても、ただ単に和訳が付いているだけじゃなくて、欄外に細かい注釈がたくさん書いてあって、熟語の意味や言い回しの使い方などが丁寧に書かれていて、すごく勉強になった。その上、シェイクスピアの戯曲は、ほとんどの作品がネイティブスピーカーによる朗読CDになっていて、それも区立図書館で無料で借りることができたから、英文を目で追いながら英語の朗読をヒアリングできて、すごく役に立った今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、高校を卒業して専門学校に進んだあたしは、英文の小説くらいなら辞書を引きながら読めるようになり、日常会話くらいなら何とかできるようになったんだけど、当時、六本木で仲良くなったアメリカ人たちからは、あたしの話す英語に対して、よくツッコミを入れられた。たとえば、あたしが「時間ある?」と聞くために「Have you got time?」と言うと、アメリカ人の友人たちはミケンにシワ寄せたり、呆れたような半笑いの顔をしたりして、「Do you have time?」と言い直された。これは、あたしが独学で勉強してきたシェイクスピアが「イギリス英語」だったのに対して、六本木で仲良くなったアメリカ人たちの使っている言葉が「アメリカ英語」だったからだ。
英語の「英」は英国の「英」なんだから、本来はイギリス英語のほうが由緒正しきものなのに、アメリカ人にとっては、イギリス英語は「格好をつけた言葉」に聞こえるらしい。ニュアンス的には、東京の人が大阪に行った時に標準語をしゃべると、大阪の人たちから「格好をつけてる」と思われるようなものみたいだ。だから、あたしは、イギリス英語とアメリカ英語の違いも勉強するようになり、アメリカ人に対しては、なるべくアメリカ英語を使うようになった。
イギリス英語とアメリカ英語の違いは、単語の違い、発音の違い、スペルの違い、動詞の使い方の違い、文法の違いなど、ものすごくたくさんあるけど、一番分かりやすい単語の違いをいくつか挙げると、たとえば、「薬局」は、アメリカだと「drug store(ドラッグストア)」だけど、イギリスでは「pharmacy(ファーマシー)」と言う。日本では、どちらの呼び方の店舗もあるけど、これがアメリカ英語とイギリス英語の違いだということを知っている人は少ないと思う。他にも、「休暇」のことは、アメリカでは「vacation(バケーション)」で、イギリスでは「holiday(ホリデー)」なんだけど、これも、日本ではどちらも使っている。
「サッカー」は、アメリカでも「soccer(サッカー)」だけど、イギリスでは「football(フットボール)」だ。「エレベーター」も、アメリカでは「elevator(エレベーター)」だけど、イギリスでは「lift(リフト)」と言う。「ポテトチップス」は、アメリカが「potato chips(ポテトチップス)」なのに対して、イギリスでは「crisps(クリスプス)」と言う。
「ガソリン」は、アメリカでは「gas(ガス)」だけど、イギリスでは「petrol(ペトラル)」と言う。日本でも「ガス満タンね」とか使う人がいるけど、「ペトラル満タンね」なんて言う人はいないだろう。他にも、ファストフード店とかで「お持ち帰り」する場合に「take out(テイクアウト)」と言うけど、これはアメリカの言い方で、イギリスでは「take away(テイクアウェイ)」と言う。こうして見ると、日本で使われている英語って、イギリス英語よりもアメリカ英語のほうがだんぜん多いことが分かる。
‥‥そんなワケで、これらは、アメリカとイギリスで単語が違うというだけなので、それほど紛らわしくはない。紛らわしいのは、同じ言葉なのにアメリカとイギリスとで別のものを指す場合だ。たとえば、アメリカでは「紙幣」のことを「bill(ビル)」と呼ぶけど、まったく同じスペルと発音の「bill」が、イギリスでは「伝票」という意味になる。そして、イギリスでは「紙幣」のことを「nite(ノート)」と言い、アメリカでは「伝票」のことを「check(チェック)」と言う。こういうのが他にも山ほどあるんだから、紛らわしいこと、この上ない。
そして、もっと紛らわしいのが、建物の1階と2階だ。アメリカでは「1階」が「first floor(ファーストフロア)」、「2階」が「second floor(セカンドフロア)」なので、何の問題もないんだけど、イギリスでは「1階」を「ground floor(グランドフロア)」と呼び、「2階」を「first floor」と呼ぶのだ。だから、日本に来ているアメリカ人とイギリス人が「明日の正午に銀座の伊勢丹のファーストフロアで」と待ち合わせをしたら、アメリカ人は1階で待っていて、イギリス人は2階で待っているので、いつまで経っても2人は出会えない。
まあ、こういうのは単語が違うだけだから、両方を覚えれば何とかなるし、たいていのアメリカ人やイギリス人は、こうした違いを知っているから、イギリスのガソリンスタンドに行って「ガス満タンね」と言っても、アメリカのガソリンスタンドに行って「ペトラル満タンね」と言っても、たいていはどちらも理解してもらえる。マクドナルドのことを東京では「マック」、大阪では「マクド」と省略するけど、東京の人も大阪の人も両方の言葉を知っているから、大阪の人が東京に来て「マクドいかへん?」と言っても、ちゃんと意味は通じる。これと同じことだ。だから、アメリカ人とイギリス人が伊勢丹のファーストフロアで待ち合わせをしても、しばらく待っても相手が現われなければ、たぶん、どちらかが別の階を見にいくだろう。
‥‥そんなワケで、こうした単語の違いの何倍もヤッカイなのが、動詞の違いで、特に多いのが「have」と「take」の違いだ。「お風呂に入る」は、あたしたちが中学校で習った英語だと「take a bath」だけど、これはアメリカ英語で、イギリス英語だと「have a bath」と言う。「席に座る」も、アメリカ英語だと「take a seat」だけど、イギリス英語だと「have a seat」になる。「休憩する」は、アメリカ英語なら「take a break」だけど、イギリス英語だと「have a break」になる。そして、「休暇を取る」の場合は、動詞だけじゃなくて、前に書いたように「休暇」という単語自体も変わるから、アメリカ英語では「take a vacation」、イギリスでは「have a holiday」になる。
まあ、これらは基本的に「have」と「take」を入れ換えればいいだけなので分かりやすいけど、動詞だけじゃなくて文法そのものが違うケースもたくさんある。たとえば、中学生になって最初のころに習う「Do you have a pen?」、「あなたはペンを持っていますか?」というのは、ピコ太郎じゃなくても誰でも知っている基本中の基本のような例文だけど、実はこれもアメリカ英語で、由緒正しいイギリス英語では「Have you got a pen?」と言わなきゃならない。最初のほうで、あたしが「時間ある?」と聞くために「Have you got time?」と言ったら、アメリカ人に「Do you have time?」と言い直されたと書いたけど、これと同じパターンだ。
他にも、アメリカ英語とイギリス英語にはいろんな違いがある。たとえば、野球やサッカーなどのチームとか、同好会や議会などのグループとかの「集団」について、アメリカ英語では必ず「単数」として捉えるのに対して、イギリス英語は「単数」でも「複数」でも、どちらでも良いことになっている。あたしは日本ハムのファンなのでファイターズを例に挙げるけど、「日本ハムファイターズが勝っています」と言う場合、アメリカ英語では「日本ハムファイターズ」というチームは「単数」になるから、「Nippon-Ham Fighters is winning.」と言わなきゃならない。でも、イギリス英語の場合は、こうしたチームを「複数の選手の集合体」として「複数」と見ることもできるので、「Nippon-Ham Fighters are winning.」と言っても良いのだ。
だけど、日本の中学校や高校の英語のテストにこう書くと、もれなく不正解にされてしまう。日本の学校の英語のテストでは、由緒正しきイギリス英語を書くと不正解になり、戦後70年が過ぎても日本を植民地と見下してやりたい放題のアメリカ英語しか正解にならないのだ。これって、激しく不条理だよね。
さらに難しい例になると、「get」という動詞の過去分詞が、イギリス英語だと過去形と同じ「got」なのに、アメリカ英語だと「gotten」になるし、イギリス英語では現在完了形を使わなきゃならない文章が、アメリカ英語の場合は普通の過去形で良いというパターンもよくある。でも、こんなのまで例を挙げて紹介していたら、もはや学校の授業みたいになっちゃうので、今日は最後に簡単なスペルの違いを少しだけ紹介しようと思う。
たとえば、「AKB48のセンターは誰々さんです」という場合の「センター」、「中央」という意味だけど、アメリカ英語で「center」と書くのに対して、イギリス英語では最後の「e」と「r」が入れ替わって「centre」と書く。「劇場」や「映画館」という意味の「シアター」も、アメリカ英語だと「theater」だけど、イギリス英語だと「theatre」になる。
他にも、「色」という意味の「カラー」は、アメリカでは「color」だけど、イギリスでは「colour」と書く。「お気に入り」という意味の「フェイバリット」は、アメリカでは「favorite」だけど、イギリスでは「favourite」と書く。「気がつく」という意味の「リアライズ」は、アメリカでは「realize」だけど、イギリスでは「realise」と書く。他にもいろいろあるけど、同じ英語なのに、イギリスとアメリカでは、単語の違い、発音の違い、スペルの違い、動詞の使い方の違い、文法の違いなど、数多くの違いがある。ま、それは別の国なんだから仕方ないとしても、あたしが声を大にして言いたいのは、「どうして日本の小学校や中学校や高校ではアメリカ英語だけを教えているのか?」ということだ。
‥‥そんなワケで、カナダの場合は、英語だけでなくフランス語も公用語として使われていて、英語はアメリカ英語とイギリス英語の混在したものが使われているけど、英語を公用語にしている国々の9割以上は、イギリス英語を使っているのだ。世界各国の代表者が集まる国際会議などの場でも、基本的にはイギリス英語が使われているし、EUでもすべての国の英語教育がイギリス英語で行なわれている。世界中の国々の中で、現在もアメリカ英語を教えているのは、日本の他にはフィリピンとリベリア共和国ぐらいで、日本の英語教育は完全に世界基準とズレているのだ。ま、日本はアメリカの属国だから仕方ないと思うし、見ているほうが恥ずかしくなるほどの、ここ最近の安倍晋三首相の「アメリカの飼犬ぶり」を見れば黙って下を向くしかないけど、小学5年生からの英語の授業を小学3年生からに前倒ししたところで、教える英語が世界基準とズレまくったアメリカ英語なんかじゃまったく意味がない。このまま未来永劫、アメリカの属国として生きていくならそれでもいいけど、日本が独立した主権国家としてのプライドを持っているのなら、アメリカ英語はトットとドブに捨てるべきだろう。せっかく小学生に英語を教えるのなら、アメリカ人にしか通じない「Do you have a pen?」などというアメリカ英語ではなく、国際社会の場で通用する由緒正しいイギリス英語の「Have you got a pen?」から教えるようにしてほしいと思う今日この頃なのだ。
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