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2018.06.24

世界一黒い鳥と世界一黒い魚

あたしたち人類に代表される哺乳類から、鳥類、魚類、爬虫類、両生類、昆虫、植物など、地球上には約175万種もの生物がいるけど、あくまでもこれは「人類が発見して名前を付けた生物」の数であって、まだ人類に発見されていない地球上の生物は、少なくとも500万種、多ければ3000万種もいると推測されている。つまり、地球上には、あたしたち人類が把握している生物の数よりも、まだ発見していない生物のほうが遥かに多いということになる。

もちろん、ゾウやキリンみたいに大きな哺乳類なら、とうの昔に発見されているだろうから、まだ発見されていない生物の大半は、小さな昆虫や植物だったりする。そして、それも、すでに発見されて名前が付けられている生物の亜種だったりする。以前、カツオクジラに関するエントリーの中で、かつてはカツオクジラとイワシクジラとニタリクジラがゴッチャにされていた‥‥と書いたけど、そんなふうに、長年、同じ生物だと思われていたものが、後から別の種類だったと判明するなんてこともある。

だから、今も年間に約2万種もの新しい生物が発見され続けているのに、普通の新聞やテレビなどで報じられることはほとんどない。もしも、ゾウのように大きな新種の哺乳類が発見されたら、それこそ世界的な大ニュースになるだろうけど、誰もが見たことのあるダンゴムシの足の数が2本だけ多い新種が発見されたとしても、専門の研究者以外の一般の人たちにはニュースバリューがないからだ。

一方、主に人類による環境破壊や乱獲が原因で地球上から姿を消していく生物は、年間に4万種以上もいる。毎年、約2万種もの新しい生物が発見され続けているのに、その倍の数の生物が絶滅し続けているのだ。ちなみに、約2億年前の恐竜の時代には、絶滅した生物は1000年間にわずか1種だったと言われている。そして、今から300年前の江戸時代でも、絶滅した生物は4年に1種、今から100年前でも1年に1種だったと言われている。絶滅する生物の数が急激に増加したのは1970年代からで、100年前には1年で1種だったものが、約40年前の1975年には1年に1000種と急増してしまった。そして、現在では、1年に4万種以上もの生物が絶滅し続けている今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、マクラの頭に、地球上にはまだ人類に発見されていない生物が500万~3000万種もいるって書いたけど、1年に4万種以上もの生物が絶滅し続けているということから考えると、人類に発見される前に絶滅してしまった生物だってたくさんいたハズだ。人類に発見されて、名前を付けられて、それから絶滅するのも、人類に発見される前に人知れず絶滅していくのも、その生物にとっては同じような話だろうけど、新種の生物を発見した人たちの多くが専門の研究者であり、そういう研究者たちに発見されれば希少種を保護するためにそのエリアの保全などが進められるケースもあるから、あたしとしては、どうせなら1種でも多くの新種が発見されて、少しでも人類による環境破壊にブレーキが掛かればと思っている。

で、そんな新種だけど、今回、昆虫や植物ではなく、鳥類の新種が発見されたのだ。それも、極楽鳥だ。極楽鳥は、熱帯のジャングルとかにいるカラフルな鳥で、日本ではフウチョウ(風鳥)と呼ばれている。フウチョウは、これまでに43種が発見されていて、ほとんどがカラフルな色彩の派手な鳥だけど、唯一、真っ黒なフウチョウがいる。羽を閉じて木の枝にとまっているところを横や後ろから見ると、カラスよりも真っ黒で「世界一黒い鳥」と呼ばれているカタカケフウチョウだ。

だけど、このカタカケフウチョウのオスが、メスの気を引くために首の周りに飾り羽を楕円形に広げると、胸の美しいコバルトブルーの模様が横に広がって、その上に目のような2つの点が現われるため、笑った顔のマークのようになる。そして、面白い求愛ダンスをしながらメスの周りをピョンピョンと走りまわるのだ。カラフルで派手な他のフウチョウたちと違って、このカタカケフウチョウがカラスよりも真っ黒なのは、この求愛ダンスでコバルトブルーの飾り羽をメスに見せる時に、そのコントラストで、よりコバルトブルーの美しさを際立たせるため、真っ黒になったと言われている。

つまり、このカタカケフウチョウは、43種のフウチョウの中で、唯一、地味な色彩と珍しい習性を備えた珍種ということになる。それが、今回、鳥類学者のエドウィン・スコールズ氏と写真家のティム・レイマン氏によって、別のカタカケフウチョウである「フォーゲルコップカタカケフウチョウ」が発見されたのだ。そして、新種の「フォーゲルコップカタカケフウチョウ」が発見されたことによって、これまでのカタカケフウチョウは「オオカタカケフウチョウ」という名前に変更された。これまでは1種だけだと思われていたので、その鳥が「カタカケフウチョウ」と呼ばれていたんだけど、もう1種が発見されたため、それまでの「カタカケフウチョウ」という呼び名は、この2種の代表名になったというワケだ。


‥‥そんなワケで、それまでのオオカタカケフウチョウと新たに発見されたフォーゲルコップカタカケフウチョウは、カツオクジラとイワシクジラのように、見た目はほとんど同じなので、最初は同じ種だと思われていた。だけど、研究のために捕獲したカタカケフウチョウの中に遺伝子の違う個体があったことから、そのカタカケフウチョウを捕獲したエリアの野外観察を続けて、新種であることが確認されたという。ちなみに、「フォーゲルコップ」というのは、「鳥の頭」を意味するドイツ語の「フォーゲルコプフ」に由来している。この鳥が発見されたインドネシアのニューギニア島のドベライ半島が、地図で見ると鳥の頭のような形をしていて、かつてはドイツの植民地だったことから命名されたという。

フォーゲルコップカタカケフウチョウのオスも、オオカタカケフウチョウと同じく真っ黒で、飾り羽を広げると美しいコバルトブルーの模様が現われる。そして、同じく求愛ダンスをするんだけど、オオカタカケフウチョウがメスの周りをピョンピョンと走りまわるのに対して、新種のフォーゲルコップカタカケフウチョウのほうは、左右に半円を描くように走り回る。鳴声も、オオカタカケフウチョウがギャーギャーというやかましい鳴声なのに対して、フォーゲルコップカタカケフウチョウのほうはピーピーとしいう可愛らしい鳴声だ。

フォーゲルコップカタカケフウチョウを発見したエドウィン・スコールズ氏とティム・レイマン氏によると、ニューギニアの奥地のジャングルは、まだ人類による開発が進んでいないため、生物多様性に富んでいて、今後も新種の極楽鳥が発見される可能性が高いと言われている。そして、現在も研究チームのメンバーたちと観察を続けながら、このエリアの環境保全に尽力しているのだ。

ところで、これらのカタカケフウチョウが「世界一黒い鳥」と呼ばれているのは、単に見た目が黒いというだけでなく、実際にカタカケフウチョウの羽毛が構造的に最大99.95%の光を吸収してしまうからだ。あたしたちの目は、光によってモノが見えるワケで、パソコンのモニターやテレビの画面などは自ら発光しているので暗闇でも見えるけど、自ら発光していないモノは、太陽や蛍光灯など、何らかの光源からの光を反射して、それをあたしたちが見ているワケだ。だけど、このカタカケフウチョウは、体に当たった太陽などの光の99.95%を吸収してしまうのだから、昼間でもこの鳥だけが漆黒の闇のように見えてしまうのだ。

だけど、世界は広いもので、このカタカケフウチョウに負けないくらい真っ黒な生物が、他にもいるのだ。それは、「ホウライエソ」などの深海魚で、身を隠すものが何もない深海で安全に暮すために、より黒く進化した結果、光の99.90%を吸収するようになったという。こうした深海魚は「スーパーブラックフィッシュ」と呼ばれているんだけど、これまで、どうやって光を吸収しているのかが分からなかった。でも、今回、深海生物を専門とする海洋生物学者ソンケ・ヨンセン氏と、米スミソニアン博物館のカレン・オズボーン氏の研究チームによって、その謎が解明されたのだ。こうしたスーパーブラックフィッシュたちは、皮膚の表面を覆った複雑な「ナノ構造」で光の粒である光子を捕まえて、そのまま吸収していたことが分かったのだ。

でも、そもそもが太陽の光など届かない深海なのに、どうして光を吸収する能力が必要なのだろうか?‥‥ってなワケで、実は、深海には、進化の過程で自ら獲得した発光体によって、光をレーダーのように使って獲物を探す生物も多いそうだ。そのため、一部の生物は、自分の体を真っ黒にして闇に同化させるだけでなく、天敵から光のレーダーを照射されても、その光を吸収して自分の存在自体を消してしまうという、まるで忍術のような能力を身に付けたというワケだ。真っ暗な深海をユラユラと泳ぐスーパーブラックフィッシュに、調査用の深海探査船から照明を放射すると、その魚の部分だけが、海中にポッカリと開いたブラックホールのように見えるという。


‥‥そんなワケで、このスーパーブラックフィッシュに該当する深海魚7種を捕獲して、それぞれの皮膚の構造を調べたカレン・オズボーン氏によると、ヒトの皮膚が黒くなる原因のメラニン色素の粒が、驚くほど複雑な構造で皮膚の表面を覆っていたという。まるで複雑なパズルのような構造になっていて、当てた光のほぼ100%が、反射せずに吸収されたそうだ。カタカケフウチョウの真っ黒な羽毛も、とても複雑な構造で光を吸収するように進化したわけだけど、メスに対して目立つために「世界一黒い鳥」になったカタカケフウチョウと、天敵から身を隠すために「世界一黒い魚」になったスーパーブラックフィッシュは、光の吸収という特性を獲得するための理由は真逆だったけど、どちらも「種の保存」という目的は同じだったことになる今日この頃なのだ。


「フォーゲルコップカタカケフウチョウの求愛ダンス」


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