« 死してなお奇才、サルバドール・ダリ | トップページ | マダニとツツガムシ »

2018.07.26

健康で文化的な最低限度の生活を営む権利

愛知県の名古屋刑務所で24日の朝、40代の男性受刑者が、重度の熱中症である「熱射病」で死亡したと、昨日25日に報じられた。状況としては、24日の早朝5時35分頃、刑務官が各房に異常はないか規定の見回りをしていたところ、4階の独居房で40代の男性受刑者が嘔吐したまま横たわっていて、救急搬送したが約1時間後に死亡が確認され、担当した医師が死因を「熱射病」と判断したという。ちなみに、この男性受刑者には持病など何もなく、いたって健康だったそうだ。

男性のいた4階は最上階で、建物の中で最も室温が高くなるそうで、この日も早朝5時の時点で34度もあったという。もちろん、雑居房にも独居房にも冷房など設置されていないため、この刑務所では通路に大型の扇風機を置き、首を振るようにして各房へ風を送るようにしていたそうだし、その他にも、すべての受刑者に1日1本のスポーツドリンクを飲ませるなど、できる範囲での暑さ対策をしていたという。

でも、皆さんご存知のように、今年の夏の暑さは異常で、7月半ばから現在までの約1週間で、すでに100人近い人が熱中症で亡くなっている。行動が制限されていない一般人でもこうなのだから、風の通らない刑務所の雑居房や独居房の中に拘束されている受刑者は、一般人の何倍も厳しい環境に置かれていると思う。ま、その点に関して言えば、冤罪でない限りは自業自得なので同情する気持ちなどまったくないけど、それでも、普通にガマンできる範囲の暑さや寒さならともかく、命に係わるレベルの暑さや寒さに対しては、何らかの対策が必要だと思う今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなケで、今はちょうど「小学校の教室にもエアコンを設置すべき」という世論が高まっている時なので、今回の刑務所の問題についても、賛否両論、いろいろな意見があると思う。ザックリと分ければ、たとえ受刑者と言えども人権があるのだから、命に係わるような環境に置くことは許されない。実際に死者が出てしまったのだから、全国の刑務所の環境を調べて、必要な場所にはエアコンを設置すべきだ‥‥という意見。そして、何の犯罪も犯さずに真面目に働いて納税して生活している人たちの中にも、生活が苦しくてエアコンなど買えない人がいるんだから、税金を使って受刑者のためにエアコンを設置するなんて言語道断だ‥‥という意見。

他にも、いろいろな意見があると思うけど、最大の争点は「税金を使って刑務所にエアコンを設置すべきか否か」ということだと思う。で、まずはあたしの意見だけど、皆さんご存知のように、あたしはずっとエアコンのない生活をして来た。正確に言えば、今はエアコンのない家に住んでいるけど、以前の東京のマンションにはエアコンが設置されていた。でも、約25年前に「原発反対!」と言うようになってからは、エアコンを使うのはやめた。電気を使いまくって真夏でも涼しくて快適な部屋の中から「原発反対!」なんて言っても説得力がゼロだと思ったからだ。

いくら「原発反対!」でも、さすがにすべての家電をいっさい使わずに生活はできないから、あたしもそれなりに家電のお世話にはなっている。でも、エアコンを始め、テレビ、電気掃除機、電子レンジなど、無くても何とかなる家電は、これまで順番に捨てて来た。だから、今もあたしがエアコンを使わないのは、貧乏でエアコンが買えないからじゃない。福島第1原発事故を経験しても、未だに原発政策を見直そうとしない安倍政権や電力会社に対する「沈黙のメッセージ」なのだ。

現在、我が家の電気料金は、母さんと2人暮らしで月に1000円前後なんだけど、東京のマンションで1人暮らしをしていた時は、エアコンを使わなくても月に3000円台だったから、ずいぶん節電が上手になったと思う。そして、これくらいまで節電をしていれば、いつでも胸を張って「原発反対!」「原発なんか必要ない!」と言えると自負している。ちょっと長くなっちゃったけど、あたしがエアコンを使わないのはこういう理由だから、エアコンが欲しいのにお金がなくて買えない人とは話が違う。そのため、「我が家にもエアコンがないって言うのに、あたしの納めた税金で刑務所にエアコンなんか設置するな!」という気持ちにはならない。

ただ、モノゴトの順序として、まずは暑さに苦しみながら勉強している子どもたちのために、エアコンが未設置の小中学校などの教室すべてに設置して、他にも、お金がなくてエアコンを買うことができない母子家庭や父子家庭、生活保護家庭などにも設置するのが先だ。そして、これまでエアコンが買えなくて困っていた国民の大半が、異常気象による命の危険を回避できてから、初めて刑務所への設置を始めるべきだろう。

刑務所に服役している受刑者に科せられた刑罰は「自由の拘束」だけであって、「食事を与えない」とか「刑務官によるリンチ」とか「命に係わるほどの暑さや寒さ」とかのプラスアルファの拷問は人権問題になってしまう。たとえ凶悪な殺人犯であっても、いつ処刑されるか分からない死刑囚であっても、刑務所や拘置所の中に拘束されている以上、その「自由の拘束」以外の処罰を与えちゃいけないと思う。マクラにも書いたように、普通にガマンできる範囲の暑さや寒さならともかく、命に係わるレベルの暑さや寒さに対しては、エアコンを設置しないとしても、何らかの対策が必要だと思う。

たとえば、その刑務所のすべての雑居房と独居房にエアコンを設置するのは予算が掛かりすぎるから、何かの時に受刑者全員が集まるホールのような部屋にエアコンを設置して、命に係わるほど気温が上昇した時だけ、このホールで涼むようにする。他にも、熱帯夜で寝られない時のために、キャスターが付いていて簡単に移動できる簡易エアコンを常備する。とにかく、1年を通してのことじゃなくて、夏場だけのことなんだから、こうした対策でも何とかなると思う。


‥‥そんなワケで、話はちょっと変わるけど、あたしの生活が一番苦しかった20代の時、あたしは、1月1日のお元日から12月31日の大晦日まで、1年間1日も休まずに朝から晩まで働き続け、その上、仕事の後も週4日ほど深夜まで水商売のバイトをやり、平均3時間ほどの睡眠時間で働き続けていた。それでも、事情があって別々に暮していた母さんの生活費と病院代も看ていたため、ぜんぜんお金が足りなかった。

あたしは、自分のマンションの家賃を払うのが精いっぱいで、電気、ガス、電話、ケータイはチョコチョコと止められていたし、最悪の時には水道まで止められたこともあった。そんな状況だったので、とても外食なんてできないし、自炊する余裕もなかった。昼間は仕事先でケータリングのサンドイッチやおにぎりをもらい、夜はバイト先で簡単なまかないを作ってもらい、1日2食で何とか生き抜いていた。

だけど、昼間の仕事は内容によってケータリングのない日も多かったし、夜のバイトも週4日なので、朝から晩まで何も食べられない日もあった。そして、そんな時は、一番安い1斤78円の6枚切りの食パンを買ってきて、水道のお水を飲みながら何も付けずにモソモソと食べていた。一番厳しかった時は、ずっと取っておいた「つぶつぶオレンジ」の缶ジュース1本で、3日間をしのいだこともあった。

そんなある日のこと、北海道は網走刑務所が新しくなる前の明治時代の木造の刑務所が博物館になっていて、そこで刑務所内で受刑者が食べている食事と同じものが食べられる食堂があるという週刊誌の記事を読んだ。そこには、実際に記者がレポートした文章だけでなく、いろいろな写真も掲載されていて、その中に食堂の食事の写真も紹介されていた。

ホッケの半身の焼き魚、春雨とキュウリとハムのサラダ、切干大根の煮つけ、お新香、麦と白米が3対7のご飯、お味噌汁。あたしは、この写真を見た瞬間、ずっとガマンしていた何かがプチッと切れて、両方の目から涙があふれ出した。1年間1日も休まずに朝から晩まで働いて、深夜のバイトまでやって、毎月450時間、1年で5500時間も働き続けているのに、家賃を払うだけで精いっぱいで、ラーメンの一杯も食べることができないあたし。それなのに、犯罪を犯して刑務所に行った人たちは、こんなに美味しそうな食事を毎日食べているのか‥‥。あたしって何なんだろう?今の世の中って、いったい何なんだろう?

こんなことを書くと人格を疑われちゃうかもしれないけど、正直に書くと、この時、あたしは、「犯罪者の食事なんてもっと粗末なものにしろ!」と思った。もちろん、これは、この時のあたしが切羽詰っていたから、精神的にも肉体的にも限界になっていたからで、いろいろなことが少しずつ良くなり、心に余裕が持てるようになってからは、決してこんなふうには思わなくなった。それでも、あたしの部屋のテーブルに網走刑務所の食事と同じようなメニューを並べられるようになったのは、それから10年以上も後のことだった。

そして、あたしがようやく分かったことは、とっても単純なことだった。刑務所の食事が贅沢すぎるんじゃなくて、1日も休まずに真面目に働いているのに、病気の母親の世話をすると刑務所と同じレベルの食事もできなくなってしまう日本の賃金の低さが問題だったのだ。自分が平均レベルの食事をできないからって、刑務所の食事を「もっと粗末にしろ!」「平均以下にしろ!」と文句を言うのは、「生活保護の水準以下で生活している人が800万世帯もいるから、全国の生活保護受給者の受給額を大幅にカットしろ!」という安倍政権のトンデモ政策と同じ視点だったのだ。

生活保護費は物価などから細かく計算された「最低生活費」なんだから、少しでもカットされたら多くの受給者が生活に行き詰ってしまう。問題なのは生活保護費ではなく、「生活保護の水準以下で生活している人が800万世帯もいる」という点だ。生活保護費は住んでいる地域や世帯の状況によって金額が異なるけど、そもそも生活保護とは、厚生労働大臣によって定められた基準で計算された国民の「最低生活費」と収入とを比較して、収入が最低生活費に満たない場合に、最低生活費から収入を差し引いた「差額ぶん」を生活保護費として支給するというシステムだ。

たとえば、東京の某区に住んでいて、この地域の「最低生活費」が月15万円だと定められている場合に、収入が月12万円しかない人は、生活保護を申請して認められると月3万円が支給される。収入が月5万円しかない人は10万円が支給される。病気やケガなどで働くことができずに収入がゼロの人は、月15万円全額が支給される。これが生活保護だ。

つまり、この生活保護の水準以下で生活している人が800万世帯もいるのなら、本来は、この800万世帯の人たちに、それぞれの住んでいる地域の「最低生活費」との差額ぶんを支給すべきなのだ。だけど、そんなことをしたら、またまた社会保障の予算が膨らんでしまい、安倍首相の大好きなアメリカ製の武器購入や世界各国へのバラ撒き外交ができなくなってしまうため、「見直し」と称して「最低生活費」を約10%も引き下げたのだ。

今の安倍政権がスタートしてから5年、消費税は引き上げられたし、食料品や日用品などは次々と値上げされたし、本来ならそれに合わせて「最低生活費」も引き上げないと生活保護受給者は暮して行けなくなる。それなのに、これほどの値上げラッシュが続いているのに安倍政権は、さっきの例で言えば、月15万円だった「最低生活費」を13万5000円に引き下げたのだ。そして、今年から3年かけて段階的に、さらに引き下げると言う。

月100万円の収入があった人が、月98万5000円に減額されたところで痛くも痒くもないだろうけど、最低限の生活をするために月15万円必要だった人が13万5000円にされたら、消費税の増税や食料品の値上げがなかったとしても厳しいだろう。さらに言えば、2014年4月の消費税増税は「税と社会保障の一体改革」だったハズだ。増税による税収はすべて社会保障に使うと言っていたのに、フタを開けてみたら社会保障費を削減しまくるという真逆の対応、もはや詐欺としか言いようがない。


‥‥そんなワケで、現在の日本の労働力人口約6500万人のうち、全体の約4割、2500万人以上が年収300万円以下だと言われている。そして、この2500万人の中に、あたしも含まれるワケだし、「生活保護の水準以下で生活している800万世帯」も含まれるワケだ。だから、ホントなら安倍政権はここに該当する労働者の賃金を底上げするための政策こそを進めなければならなかったワケであり、ここに該当する世帯すべてが最低でも網走刑務所と同じレベルの食事をとれるようにしなければならなかったワケだ。そして、それが実現して、ようやく日本国憲法第25条第1項に定められた「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」が守られたことになるから、順序としては、ここで初めて「刑務所のエアコン設置」へと話を進められるようになる今日この頃なのだ。


★ 今日も最後まで読んでくれてありがとう!
★ よかったら応援のクリックをポチッとお願いします!
  ↓

|

« 死してなお奇才、サルバドール・ダリ | トップページ | マダニとツツガムシ »