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2018.08.01

「東京オリンピックのため」というお題目

記念すべき第100回全国高校野球選手権大会は、地方大会が終わって全国56の代表校が決まり、8月5日から甲子園球場で開幕するけど、今年の春のセンバツから導入されたのが「延長タイブレーク制度」だ。「タイブレーク」と言うのは、「均衡状態(タイ)を壊す(ブレーク)」という意味で、もともとは、議会で賛成と反対が同数だった場合に、議長がどちらかに自分の1票を入れて決着を付けることを「タイブレーク」と呼んでいた。これがスポーツの世界でも使われるようになり、主にテニスやソフトボール、野球などで、同点のまま延長戦に入った時に、勝敗の決着をつきやすくするための特別ルールを指す言葉になった。

野球の場合は、通常は9回までだけど、9回の裏が終わった時点で同点だと延長戦の10回に入り、10回の表裏でも勝負がつかないと11回、11回の表裏でも勝負がつかないと12回へと続いて行く。だけど、これだとキリがないので、日本のプロ野球の延長は12回まで、高校野球の延長は15回までとそれぞれ決められていて、これらの回の裏が終わっても同点だと、その試合は引き分けということになった。

だけど、ここで問題なのが、高校野球は「勝ち抜き戦」だという点だ。すべてのチームと総当たりで何度も試合をしながらリーグ戦を進めて行くプロ野球の場合なら、何試合かに1回か引き分けになっても、最終的には順位が決まる。だけど、その試合に勝ったほうのチームが次の試合へと進む「勝ち抜き戦」の高校野球では、引き分けになったら勝敗が決まるまで何度でも再試合をしないとならないのだ。高校野球で「引き分け→再試合」ということが続くと、日程が厳しくなるだけでなく、エースが休みなくマウンドに上がることになり、最悪の場合は肩を壊して選手生命を絶たれてしまう可能性もある今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、野球の「延長タイブレーク制度」は、9回裏が終わった時点で同点で決着がつかずに延長戦に突入した場合に、「得点圏内に走者のいる状態」からイニングを始めるというものだ。規定は様々で、延長10回からすぐにタイブレークになる規定もあるし、延長10回は普通にやっておいて、それでも決着しなければ延長11回からタイブレークになる規定もある。状況も「1アウト満塁からスタート」とか「ノーアウト1、2塁からスタート」とかあるし、この時の走者も前イニングの打順を引き継ぐ場合と、好きな選手を使える場合など、複数のケースがある。どちらにしても、こうした状況からスタートすれば、どちらのチームも1打で得点するチャンスがあるため、長々と延長が続くことは稀で、たいていはすぐに決着がつく。

あたしが良く覚えている印象的なタイブレークは、去年3月の「WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)」の2次ラウンドでの「日本×オランダ」だ。オランダチームはソフトバンクのバンデンハークが先発だったので、侍ジャパンの攻撃回は日本のパリーグの試合を観てるみたいだったけど、リードしていた日本は8回を日本ハムの宮西と増井(現オリックス)のリレーで何とか乗り切るも、9回に楽天の則本をストッパーに使うという小久保監督の奇策が失敗して同点に追いつかれ、延長戦へと突入してしまった。

そして、延長10回で決着がつかなかったため、「WBC」のルールにより延長11回から「ノーアウト1、2塁」でスタートするというタイブレークに入った。そして、侍ジャパンは日本ハムの中田翔が2点タイムリーを炸裂させ、その裏を10回からマウンドに上がっていた西武の牧田(現パドレス)が抑えて逃げ切った。ちなみに、日本と同じく2次ラウンドを勝ち抜いたオランダは、本拠地アメリカで行なわれた準決勝でもプエルトリコ戦で延長タイブレークの末に敗れてしまった。

「WBC」が延長タイブレーク制度を導入したのは2009年の第2回大会からで、「ノーアウト1、2塁」は今と同じだけど、当初は「延長13回から」だった。でも、これだとあまり試合時間の短縮につながらないので、去年の第4回大会から「延長11回から」に変更されたのだ。一方、もう1つの世界大会「プレミア12」では、2015年の第1回大会から導入されていて、こちらでは「延長10回から」となっている。ようするに、まだまだ発展途上のルールなので、まずは実験的に導入してみて、様子を見ながら変更すべき点は変更して‥‥ということなんだと思う。


‥‥そんなワケで、去年まで延長タイブレーク制度が導入されていなかった高校野球の甲子園大会では、去年の春のセンバツの7日目、3月26日のこと、第2試合の「福岡大大濠×滋賀学園」が「1-1」の同点で延長15回を終えて引き分けとなり、第3試合の「福井工大福井×健大高崎」も「7-7」の同点で延長15回を終えて引き分けとなり、春夏の甲子園で史上初の「2試合連続の引き分け再試合」となってしまったのだ。翌27日の3試合はすでに決まっていたため、翌々日の28日に、この2試合の再試合が行なわれることになった。そのため、本来は28日に行なわれる予定だった準々決勝が29日へ順延され、その結果として、準々決勝の翌日の「休養日」がなくなってしまったのだ。

この事態を受けて、高野連(高校野球連盟)は、かねてから検討してきた延長タイブレーク制度の導入に本腰を入れたのだ‥‥とは言っても、高校野球では、すでに国民体育大会や明治神宮野球大会などでは延長タイブレーク制度が導入されているし、甲子園大会でも2015年から都道府県の地区ブロック大会では試験的に導入されている。また、大学野球や社会人野球などでも導入されているので、こうした下地がある上で、春のセンバツと夏の選手権での導入が検討されてきたってワケだ。そして、そんな時に春のセンバツで「2試合連続の引き分け再試合」という珍事が起こったため、この制度の導入を進めてきた勢力にとっては「棚からボタモチ」という流れになったというワケだ。

あたしは、この延長タイブレーク制度について、別に反対してるワケじゃないし、特に高校野球に関して言えば、投手の酷使の問題から見ても、どちらかと言えば導入すべきだと思っている。これは、多くの人が同意見だと思うし、実際に全国の都道府県に対して行なった高野連のアンケート調査でも、回答した40都道府県のうち38が「甲子園大会への導入」に「賛成」と回答している。ただ、この延長タイブレーク制度が良いか悪いかという議論とは別に、あたしは、こうして何かが起こった時に、それを理由にして自分たちの進めてきた計画を押し通すというやり方が、あまり好きじゃないだけだ。

実際、大学野球に延長タイブレーク制度が導入されたのは2011年で、この時は「東日本大震災」を受けて「節電のために試合時間を短縮する必要がある」という理由で導入されたのだ。当時は「節電」という大義名分を使えば誰からも批判など出ない空気感が漂っていたため、延長タイブレーク制度の導入を進めたい人たちが、これを利用したというワケだ。去年の春のセンバツの「2試合連続の引き分け再試合」にしても、春夏を通して初めてのことなんだから、次に起こるのは何十年も先かもしれないし、もう起こらないかもしれない。それなのに、この珍しい出来事に「待ってました!」とばかりに飛びついて、計画を急加速させ、翌年には導入だと言う。なんかこれ、どっかで見たような話だなと思ったら、加計学園の獣医学部新設の計画に似てるよね(笑)

そこで、「な~んでか?」って、堺すすむさんの『なんでかフラメンコ』みたいに聞いてみると、前・高野連副会長で、阪神タイガースのチームドクターもつとめていた大阪警察病院の越智隆弘院長は、将来のある若い選手たちを守るために「甲子園大会へのタイブレーク制度の導入は必要」だとした上で、しかし、今回の導入の流れは、こうした「若い選手たちを守るため」ではないと言う。そして、次のように説明した。


「理由は東京オリンピックですよ。東京オリンピックでの野球の正式種目認定を目指すためには、1試合を2時間程度に抑えなければならない。高校野球へのタイブレーク制度導入の意見はその過程で出てきたものなんですよ。まずは高校野球に導入して、世間的に広く認識してもらおうということで進められてきたんです」


う~ん、またまた「東京オリンピックのため」という耳タコのお題目ですか?あたしはプロ野球ファンなので、「2020年は春から秋まで神宮球場を使わせろ」という東京オリンピック組織委員会の上から目線の恐喝行為には激しくムカついているし、「7月6日から9月13日までの70日間」に短縮された現在の日程でもぜんぜん納得していない。だって、オリンピックの開催期間はわずか2週間だけなのに、なんで70日間も神宮球場を貸さなきゃならないのか?百歩ゆずって横浜スタジアムのように「オリンピックのソフトボールの会場」として使用されるのならともかく、神宮球場は「資材置き場」として使われるんだよ?

オリンピックが開催される2週間は、プロ野球はすべての公式戦の中断が決まったのでどうでもいいけど、神宮球場をホームとするヤクルトはオリンピックの前後2カ月間もホームゲームができないのだ。どのチームだって、ほとんどの選手はホームゲームが得意なワケだし、2カ月間も全国を回って相手チームのホームで戦わなきゃならないなんて、阪神の「死のロード」を遥かに上回る「地獄のロード」になってしまう。「東京オリンピックのため」という印籠を掲げれば何でも通ってしまうと思っている東京オリンピック組織委員会のふざけたやり方に、日本ハムのファンのあたしでさえもムカついてるんだから、ヤクルトファンはあたしの何倍もムカついてるだろう。

オリンピックは特別なことなんだから、お前らプロ野球なんか脇にどいてろ!東京オリンピック様のお通りだ!お前らは道をあけろ!‥‥って言われているみたいで、あたしの怒りは収まらない!もともとあたしは東京オリンピックには大反対だったけど、この神宮球場の件で、さらに大反対になった!だって、神宮球場をホームにしているヤクルトをどかして「資材置き場」として使うとか抜かしてるんだよ?プロ野球をバカにするにもホドがあるよ!そんなことのためにプロ野球の試合を潰すなんて考えられないよ!


‥‥そんなワケで、あたしは、こんな背景があるから、高校野球の甲子園大会への延長タイブレーク制度の導入にしても、そのこと自体には反対どころか賛成なのに、「高校球児たちのため」じゃなくて「東京オリンピックのため」という理由にムカついているのだ。そして、もっとムカついているのが、2020年の「インターハイ」に関する運営費不足の問題だ。「インターハイ」とは「インター・ハイスクール・チャンピオンシップ」の略で「全国高等学校総合体育大会(全国高校総体)」のことだけど、毎年、開催地が持ち回りで移動する。去年は南東北で山形県、今年2018年は東海で三重県、来年2019年は南九州、そして2020年は北関東と決まっている。

そう、東京オリンピックが開催される2020年は、東京オリンピックの招致が決まる前から、東京を中心とした北関東がインターハイの開催地に決まっていたのだ。だけど、東京オリンピックの開催が決まり、何から何まですべてが「東京オリンピックのため」という大義名分のもとに進められてきた現状では、このインターハイもプロ野球と同様に、東京オリンピック様のために道をあけなければならなくなった。今はすべてがオリンピック最優先で進められているため、同じエリアで開催されるインターハイは、試合会場や宿泊施設や競技役員の確保ができなくなり、現状では北関東で実施できない競技が19種目にも上っている。

この原稿を書いている2018年8月の時点で、この19種目のうち数種目は何とか他県での開催に漕ぎつけたけど、未だに10種目以上の開催地が未定のままなのだ。そして、これは、ただ単に「代替会場が見つからない」という物理的な問題だけでなく、仮に代替会場が見つかったとして、そこで開催するための予算が不足しているのだ。

現在、2020年の開催が危ぶまれているインターハイの競技は、陸上、体操、テニス、卓球、ハンドボールなど計10種目以上もあり、このままこれらの競技が行なわれないことになると、場合によってはインターハイそのものが開催できなくなる可能性もあるという。そして、その最大の原因が、今、言ったように「予算不足」なんだけど、いったいいくら不足してるのかと言うと、これが「7億円」なのだ。東京オリンピックの何千億円という競技場や何百億円という会場のニュースを嫌と言うほど見せられてきたあたしたちにとって、この「7億円」という金額は肩透かしを食らったように感じるかもしれない。

でも、都民や国民の血税を湯水のように使える東京オリンピックとは違い、もともとが営利目的ではないインターハイにとって、この「7億円」は気が遠くなるほどの金額なのだ。現在は、何らかの種目でインターハイに出場している全国の高校で、主に体育会系の部活をしている高校生たちから「1人200円」の募金を集めていて、2020年までにこの「7億円」を作ろうとがんばっているところだ。だけど、考えてみてほしい。今、1人200円ずつ募金している全国の高校2年生や3年生は、2020年には高校を卒業しているのだ。今の高校生たちは、自分のためじゃなく、自分の後輩たちのために募金をしていることになる。

高校球児の中に将来のプロ野球選手がいるように、インターハイに出場する高校生たちの中には将来のオリンピック選手がいるはずなのに、そのインターハイが東京オリンピックのせいで開催を危ぶまれているなんて、そして、わずか「7億円」の予算不足を何とかするために全国の高校生たちが募金をしているなんて、あたしは、これほどの本末転倒を他に知らない。何千億円もの競技場や何百億円もの会場を林立させていながら、どうしてインターハイのためには何もしてあげないのか?「東京オリンピックのため」というお題目を「打ち出の小づち」にして都民や国民の血税を湯水のように使いまくっているのに、どうして将来のオリンピック選手たちのためには「7億円」すら出さないのか?


‥‥そんなワケで、「東京は福島から250キロも離れているので安全だ」という暴言でオナジミ、東京オリンピック招致委員会の竹田恒和会長(当時)は、自身が会長をつとめていた2011年から2013年までの間に、東京都に対して計7回、総額27億円もの補助金を要求していて、このうちの一部の数億円は電通を通じてシンガポールの実体のない幽霊会社へ支払われていたことが分かっている。そして、フランスの捜査当局は、この数億円が闇組織によってワイロとしてオリンピック委員らに配られていたと見て現在も捜査している。あたしは納税者の1人として、声を大にして「こんなイカサマに27億円も使うなら、その前に全国の高校生たちのために、インターハイのために7億円を使え!」と言いたい今日この頃なのだ。


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