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2018.10.06

秋刀魚の煙

「秋」と言えば、スポーツの秋とか読書の秋とか芸術の秋とか食欲の秋とか矢代亜紀とか、いろんな「秋」があるけど、スポーツは観戦オンリーで自分でやるのは疲れるからマッピラゴメンのあたし、読書は大好きだけど秋に限らず1年中ずっと何かしらの本を読んでいるあたし、芸術はイマイチよく分からないあたしとしては、「秋」と言えば、やっぱり食欲の秋ということになる。そして、食欲の秋と言えば、日本人の基本とも言える新米、高級食材の代表とも言える松茸、正岡子規も法隆寺で俳句に詠んだ柿などを始め、数々の秋の味覚が目白押しだ。だけど、そんな中でもあたしが特に楽しみにしているのが、秋の刀の魚と書いて「秋刀魚」、サンマだ。

 

前回のエントリーに書いたように、あたしは松茸が大好物だけど、中国産の松茸だって小さいのが2本で980円とかするから、とてもじゃないけど手が出ない。あたしの手が届くのは、永谷園の「松茸の味 お吸い物」くらいだ。だから、今回は、前回のエントリーの「焼き魚」からの流れで、松茸の対極にある庶民の味方、サンマについて取り上げようと思う。何故なら、庶民の中でも一番底辺の我が家でも、先週、ようやく新サンマを食べることができたからだ。

 

日本のサンマ漁は、小型船の漁は毎年7月の中旬から始まるけど、一度に大量のサンマを獲ることができる100トン以上の大型船による棒受け網漁は、1カ月ほど後の8月20ごろに解禁になる。そのため、漁獲量の少ないシーズン頭のサンマは値段が高くて、大型船が稼動し始めてから安くなり始めるんだけど、ここ数年は深刻な不漁が続いているため、なかなか値段が安くならない。今年も、スーパーの鮮魚コーナーに新サンマがお目見えした当初は、1匹350円だの400円だのと、とてもじゃないけど庶民には手が出ない値段だった。そのため、新サンマの隣りには、冷凍保存しておいた去年のサンマを解凍した「解凍サンマ」が、庶民向けに1匹100円で並んでいだほどだ。

 

でも、これは、毎年のことなので、しばらくすれば手の届く値段になると思って、あたしは、スーパーに行くたびにサンマの値段をチェキしていた。でも、2週間が過ぎても1匹300円、1カ月が過ぎても1匹250円と、なかなか手の届く値段にまで降りて来ない。例年なら、スタート時こそ1匹300円以上しても、1カ月も経てば1匹100円になるのに、今年は値段の下がり方が超スローだった。そして、2カ月が過ぎた9月中旬、ようやく1匹150円くらいにまで下がり、安さを売りにしたスーパーなら1匹128円とかになったけど、あたしはサンマは1匹100円以下じゃなければ買わないことにしているので、スーパーの鮮魚コーナーを覗くたびに、心の中で「あと、ひと声!」とサンマたちに呼び掛けていた。

 

そして、先週のこと、仕事の帰りにいつものスーパーに寄ると、ナナナナナント!ついに新サンマのコーナーに「1匹98円」の値札が付いていて、主婦たちがこぞってビニール袋に金属製トングでサンマを入れていたのだ!あたしは、現役時代の桑田真澄が1アウト1塁から内野ゴロを打たせてゲッツーを取った時のように小さくガッツポーズをして、新サンマを2匹、ビニール袋に入れた今日この頃、皆さん、今年のサンマは食べましたか?

 

 

‥‥そんなワケで、日本のサンマ漁だけど、去年2017年は過去2番目の不漁で、全国のサンマの漁獲量は約8万4000トンしかなかった。この数字だけ聞いても、比較するものがないと「どれほどの不漁だったのか」ということが分からないと思うので、反対に過去最高の漁獲量だった1958年のデータを紹介すると、「約57万5000トン」だ。「60年も昔ならサンマもたくさんいただろう」と思うかもしれないけど、1969年には過去最低の「約6万3000トン」を記録している。

 

実際、乱獲によってサンマ自体の個体数が減り続けていることは事実だけど、サンマ漁の場合は、それよりも海水温の問題のほうが大きい。サンマは冷たい海を好むので、日本近海の海水温が高い年は、サンマの群れが日本近海を避けて北の海へ行ってしまうため、日本の漁獲量はガクッと落ちる。この過去最低を記録した1969年も、過去最低から2番目を記録した去年2017年も、例年より日本近海の海水温が高かったのだ。そして、過去最低を記録した2~3年後の1970年代初頭には、日本近海の海水温が例年通りに戻ったため、全国の漁獲量は40万トンを超えた。

 

だから、サンマ漁の漁獲量は、海の環境の悪化に伴って毎年少しずつ減少して来たワケじゃなくて、半世紀以上も前から、その年その年の日本近海の海水温によって、良かったり悪かったり良かったり悪かったりを繰り返して来たってワケだ。そして、平均すると20万トンから30万トンあたりをキープして来たので、これよりも多ければ豊漁、少なければ不漁ということになる。そして、2015年、2016年と不漁が続き、2017年には過去最低から2番目を記録したけど、今年も「去年よりは上昇するが、2015年、2016年と同程度の不漁」と予測されていて、水産庁は推定で「約11万5000トン程度」と見込んでいる。

 

 

‥‥そんなケで、こうしたサンマ漁の実体を知ると、スーパーの鮮魚コーナーの新サンマが、なかなか、あたしの守備範囲の「1匹100円以下」にならなかった理由も分かるし、不漁なのに1匹98円で売ってくれたスーパーの心意気も嬉しくなって来る。正直、今年のサンマは、ちょっとサイズが小さいし、脂の乗りもイマイチだったけど、それでも、庭に七輪を出して、うちわでパタパタとあおぎながら、常に風下に回るようにしながらサンマを焼くのは、アウトドア感覚で楽しかった。そして、母さんと食べた今年初の新サンマは、やっぱり秋の味覚がした。

 

ちなみに、あたしは、サンマの塩焼きは頭からシッポまですべて食べて、何ひとつ残さない。これが、「焼き魚」を愛するあたしの食べ方だ。シャケやブリのような切り身じゃなくて、アジやサンマのように1匹丸ごとお料理するお魚の場合は、焼いたり煮たりしてお皿に盛る時、基本的に「海のお魚は頭が左、川のお魚は頭が右」と決まっている。だから、サンマの塩焼きの場合は頭を左にしてお皿に盛るワケだけど、あたしは、まず、頭の下からシッポまで、背骨に沿ってお箸で切れ目を入れて行き、身を上下にひらきながら食べて行く。この時、大好物のワタ(内臓)にはお箸を付けずに、それ以外の身だけを食べる。

 

これで、片面の身を食べ終えたので、次は、シッポを持って背骨を身から外しながら頭の下まで引き上げて、ここで背骨をポキッと折って、お皿の上のほうに避けておく。そして、またまたワタを残したまま、反対側の身を食べて行く。何人かに1人は、焼き魚の片面の身を食べ終わると、お魚を裏返して反対側の面の身を食べる人がいるけど、あれは邪道だし見ていて汚らしい。本物のお魚好きなら、最初に置かれたままの形で最後まで食べ終えるのがマナーだし、何よりもこのほうが美しい。

 

で、両面の身を食べ終えたら、ここからサンマの塩焼きの佳境に入る。まずは、大好物のワタをつまみながら冷酒をいただくんだけど、あたしの場合、サンマ1匹のワタで冷酒1合を基本にしている。そして、ほろ苦いワタとスッキリした辛口の冷酒とのハーモニーを堪能したら、いよいよ、サンマの塩焼きの中であたしが一番好きな心臓だ。焼き鳥なら「ハツ」とも言うけど、ワタを食べたあとにサンマの頭の下のほうにお箸を入れて掻き出すと、1センチにも満たない小さな三角形の物体が出てくる。これがサンマの心臓だ。

 

ここでのポイントは、ウロコに気をつけることだ。サンマやイワシってウロコのないお魚だと思い込んでいる人が多いけど、サンマにもイワシにもウロコはある。ただし、どちらも凄くウロコの剥がれやすいお魚なので、大きな網で何千匹も何万匹もまとめて獲ると、網の中でお互いの体が擦れ合って、ウロコがぜんぶ剥がれてしまうのだ。そして、剥がれた大量のウロコの一部が、サンマたちの口やエラから入って、頭の後ろの場所に溜まってしまう。そのため、あたしの大好物の心臓を食べようとすると、何枚かの青いウロコが一緒に出て来て、そのままうっかり口に入れると、ウロコの不快な食感で、せっかくの楽しい晩酌が台無しになってしまうのだ。

 

ウロコに気をつけつつサンマの心臓という珍味を楽しんだら、お皿に残っているのは、あとは頭と背骨だけだ。ここでいったん、お台所へ行き、ガス台に網を乗せて、サンマの頭と背骨を焼く。頭は両面をシッカリと焼くけど、背骨は軽く炙る程度でいい。そして、これにお醤油を少しだけ垂らして、これまた冷酒を飲みながらいただく。サンマの頭はウナギの兜焼きみたいに美味しいし、背骨はコリコリしていて香ばしくてとっても美味しい。これが、あたしのサンマの塩焼きの食べ方だ。これで、あたしのお皿には、数枚の青いウロコの他は何も残っていない。

 

サンマや小アジ、アユやヤマメなど、塩焼きでも頭から食べられるお魚は丸ごといただくし、そのままだと頭や骨がちょっと硬い場合は、このサンマの塩焼きのように、新たに焼いたり炙ったりして頭も骨も残さずにいただく。そして、タイやスズキやイサキのように、骨が太くて炙っても食べられないお魚の場合は、頭は兜焼きにして食べられる部分だけ食べて、骨は軽く炙って臭味を取って、頭の残りと一緒にお鍋で炊いて出汁を取り、潮汁(うしおじる)にしたり雑炊にしたりする。カワハギを始めとしたお魚のヒレは、調理する前に取っておいて、干物カゴに入れて1日ほど干してから、軽く炙って湯呑に入れて、熱燗を注いでヒレ酒にする。カワハギのヒレ酒なんて、フグのヒレ酒よりも美味しいんだから。食べられる部分はすべて食べ、食べられない部分でも最大限に利用する。これが、感謝して「命」をいただく上での、あたしの作法だ。

 

 

‥‥そんなワケで、あたしは、ワインはあんまり飲まないので、ワインに関する知識はゼロだ。「肉料理には赤ワイン、魚料理には白ワイン」とか、「赤ワインは室温で、白ワインは冷蔵庫で冷やして」とか、この程度の知識しかない。だけど、そもそもが1本何万円もするワインも1本390円のコンビニのワインも味の違いなんて分からないから、こんな決まり事など完全に無視している。あたしは自分の味覚がすべてなので、2リットル980円の業務用の赤ワインを冷蔵庫で冷やして、サンマの塩焼きに合わせることが多い。サンマの塩焼きと言えば、基本的には辛口の日本酒の冷酒だけど、辛口の赤ワインもよく冷やすとバッチリ合うのだ。だから、次に1匹98円のサンマを買って来たら、今度は業務用の赤ワインでセレブ風味に楽しんでみようと思っている今日この頃なのだ♪

 

 

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