人間の欲と都合で絶滅させた動物たち
あたしたち人間による乱獲や自然破壊などが原因で、絶滅させてしまった動物は世界中に数えきれないほどいるけど、その中で、最も短期間で絶滅させてしまった動物が「ステラーカイギュウ」だ。「カイギュウ」は「海牛」、ようするにジュゴンやマナティーの仲間なんだけど、ステラーカイギュウはとてつもなく大きかった。ジュゴンは最大で体長3メートル、体重600キロほどで、マナティーは一番大きなアメリカマナティーが最大で体長4メートル、体重1500キロほどだけど、ステラーカイギュウは最大で体長9メートル、体重は10トンを超える個体もいたという。
ステラーカイギュウは、1741年にベーリング海で発見されたんだけど、最初から寒い海にだけ生息していたワケじゃなくて、10万年前には北太平洋に広く生息していて、現在の日本の近海やカリフォルニアの近海にもいたそうだ。だけど、長い年月の間の気候変動へ海水温の変化などによって、1万年ほど前には寒いベーリング海にだけ生息するようになったという。
そんなステラーカイギュウだけど、体は大きくても昆布を食べてプカプカ浮いている大人しい動物で、警戒心も少なくて殺すのも簡単だった上に、1頭から大量の美味しい肉が取れるため、人間による乱獲が始まった。そして、1741年の発見当時には2000頭以上もいたステラーカイギュウは、わずか27年後の1768年、最後の1頭が殺されて絶滅してしまったのだ。まだ人類がクロマニョン人だった時代から海で平和に暮していたステラーカイギュウは、それから10万年以上かけて進化した人類の手によって、わずか27年という一瞬のうちに絶滅させられてしまった今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、ステラーカイギュウの場合は、人間が発見した時点で2000頭ほどしかいなかったから、人間に見つかってしまった以上、遅かれ早かれ絶滅させられることは決まっていた。だけど、人間の欲望とはホントに恐ろしいもので、もしもステラーカイギュウの数が10倍、100倍、1000倍だったとしても、それでも人間は間違いなくステラーカイギュウを絶滅させていたと思う。何故なら、人間は「リョコウバト」も絶滅させているからだ。
リョコウバトは、夏はアメリカの五大湖の周辺の森林にいて、冬はメキシコへ行く渡り鳥で、普通のハトが約30センチなのに対して、約40センチとひとまわり大きかった。そして、何よりのポイントは、その肉がとても美味しかったことだ。そのため、自分たちが食べるだけでなく、街などで高く売れるため、1800年ごろから多くのアメリカ人たちがリョコウバトを乱獲し始めた。でも、当時は誰も心配していなかった。それは、リョコウバトは「世界で最も数の多い鳥」であり、推定で「約50億羽」も生息していたからだ。
それなのに、嗚呼それなのに、それなのに‥‥って、久しぶりに五七五の俳句調で嘆いてみたけど、カネに目が眩んだ当時のアメリカ人たちは、大人のリョコウバトだけでなくヒナまで殺し続け、約100年後の1906年に最後の1羽が撃ち落され、野生種は絶滅してしまった。そして、数年後には動物園などで飼育されていた個体も死んでしまい、完全に絶滅してしまったのだ。リョコウバトは、1回に1個の卵しか産まないため、複数の卵を産む他の鳥より繁殖力が低かったけど、それでも、50億羽もいた鳥をわずか100年で絶滅させてしまうなんて、人間の欲望ってホントに恐ろしい。
‥‥そんなワケで、ステラーカイギュウやリョコウバトの場合は、肉が美味しいから乱獲されて絶滅させられたワケだけど、もっと酷い理由で絶滅させられた動物も多い。たとえば、現在の南アフリカ共和国のあたりに数多く生息していた「クアッガ」だ。シマウマの一種なんだけど、頭から首の付け根までがシマウマと同じシマシマ模様なのに、胴体は茶色で、脚は白い。30~40頭の群れで暮らし、草原の草を食べる大人しい動物だったんだけど、1800年代に西洋からの入植者たちが牛や馬を放牧するため、クアッガは邪魔者として乱獲され、あまり美味しくなかった肉は、黒人の使用人たちの食料にされた。そして、1861年に最後の野生種が射殺され、その後、動物園で飼育されていた最後の個体も死に、絶滅してしまった。
これと同じなのが、有名な「ドードー」だ。ドードーは、モーリシャスに生息していた飛べない鳥で、1500年代にポルトガル人によって島が発見され、入植者の持ち込んだ犬や豚がドードーのヒナや卵を食べてしまい、人間による乱獲も手伝って、1681年に絶滅してしまった。ドードーの肉は「とても食べられないほど不味かった」と言われているのに、どうして人間たちは乱獲したのか?それは「娯楽」としてなのだ。なんて残酷なんだろう‥‥。
ドードーのように飛べない鳥は、人間にとってカッコウの対象で‥‥って、鳥だから「カッコウ」にカケたワケじゃないけど(笑)‥‥カナダやアイスランド、イギリスなどの寒い海に生息していた「オオウミガラス」も飛べない鳥だった。名前は「カラス」だけど、見た目は白黒のツートンカラーでペンギンみたいな鳥で、体長75センチ、体重5キロもある大型の鳥だった。寒い海にいる鳥なので、1600年代から羽毛や脂の原料として乱獲され、卵も食用として採取されたため、1844年に絶滅してしまった。
‥‥そんなワケで、こうした飛べない鳥の中でも、一番かわいそうな殺され方をしたのが、かつてニュージーランドに生息していた巨大な鳥、「ジャイアントモア」だ。ダチョウを大きくしたような姿で、大きなメスは頭までの高さが3.6メートル、体重は250キロもあって、オスはメスより小さかった。このジャイアントモアは、イギリス人が入植する前に、先住民のマオリ族がニュージーランドに移住してから乱獲を始めたため、1500年以前には絶滅してしまったと伝えられているけど、その殺し方が残酷だった。ジャイアントモアは、消化器官である砂嚢(さのう)に飲み込んだ小石を溜めて食べたものをすり潰す習性があったため、マオリ族はその習性を利用して、ジャイアントモアに焼けた小石を飲ませて殺したのだ。
そして、このジャイアントモアと双璧を成す巨大な鳥が、アフリカのマダガスカル島に生息していた「エピオルニス」だ。マダガスカル島には、あたしの大好きな「ワオキツネザル」を始めとして、独自の進化をした動物がたくさんいるけど、このエピオルニスも独自の進化をして来たため、骨格標本などを調べると、少なくとも6~7種の種類がいたと推測されている。そして、その中でも最大の種が「エピオルニス・マクシムス」だった。これまでの研究では、最大で頭までの高さが3.4メートル、体重が450キロと推定されていたので、背の高さではジャイアントモアに負けるけど、体重では倍近くも勝っていた。エピオルニスは、日本語で「象鳥」と言うので、重さならナンバーワンだと思う。
このエピオルニス・マクシムスを始めとしたエピオルニスの仲間たちは、やはり、人間がマダガスカル島へ移住したことによって、乱獲や森林伐採などで絶滅してしまった。1600年代には絶滅したという説が有力だけど、1800年代まで数羽が生き残っていたという説もある。どちらにしても、今は絶滅しているから同じことだけど、今年の9月下旬、大変な研究結果が発表されたのだ!それは、背の高さではナンバーワンだったジャイアントモアと、体重ではナンバーワンだったエピオルニスの「どちらが世界最大の鳥なのか?」という、100年にわたる学者たちの論争に、ついに終止符が打たれる論文だった!
‥‥そんなワケで、まずは、これまでの両者の最大サイズを、分かりやすいようにダチョウと比較してみる。
ダチョウ 2.5メートル 135キロ
ジャイアントモア 3.6メートル 250キロ
エピオルニス 3.4メートル 450キロ
で、これを踏まえた上で、今年9月下旬に英国王立協会の科学誌「ロイヤルソサエティー・オープンサイエンス」に発表された論文の要点を抜き出して紹介する。まず、時系列で説明すると、1894年にイギリスの科学者、C・W・アンドリュース教授が、それまで最大のエピオルニスだとされていた「エピオルニス・マクシムス」よりも大きい「エピオルニス・ティタン」という種の骨格を見つけたと発表した。でも、この教授とライバル関係にあったフランスの教授は、「それは新種ではなくエピオルニス・マクシムスの大きな個体だ」と反論した。
こうした大前提があった上で、今回、世界中のエピオルニスの骨格標本をすべて調査し直したロンドン動物学会のジェイムズ・ハンスフォード教授は、「エピオルニス・マクシムスとエピオルニス・ティタンは、骨格の特徴からまったく別の種であり、エピオルニス・ティタンの最大の個体の骨格標本は、推定体重が860キロ、成体のキリンに匹敵する背の高さだった」という結論を導き出し、論文を発表したのだ。キリンの背の高さは5メートル前後もあるから、このエピオルニス・ティタンは、背の高さも体重もジャイアントモアを遥かに超えていたのだ。
ちなみに、マダガスカル島の原住民たちは、かつて生息していたこの鳥のことを、現地の言葉であるマラガシ語で「大きな鳥」を意味する「ボロンベ・ティタン」と呼んでいて、背の高さはゆうに3メートルを超え、体重は平均で650キロもあったと伝えている。そして、人間がマダガスカル島へ移住して乱獲したために約1000年前には絶滅してしまったけど、最も古い化石から推算すると、ナナナナナント!6000万年も前からマダガスカル島に生息していたと見られている!
地球上に人類の祖先の「猿人」が誕生したのが400~500万年前で、その猿人がジャワ原人や北京原人などの「原人」に進化したのが約180万年前、そして、その原人がネアンデルタール人などの「旧人類」に進化したのが約50万年前で、現在のあたしたちの直接の祖先、クロマニョン人などの「新人類」に進化したのが約20万年前だ。だから、どこからを「人類の歴史」と見るかによって解釈は様々だけど、「現在の人類の歴史」ということになると「約20万年」ということになる。そして、そう考えると、6000万年も前からマダガスカル島で平和に暮していた「飛べない鳥」たちは、あたしたち人類の大先輩だ。それなのに、後から現われた人類たちが、アッと言う間に絶滅させてしまうなんて‥‥。
‥‥そんなワケで、まだ地球上に人類などいなかった約2億年前の恐竜の時代には、絶滅する生物は1000年間にわずか1種だったと言われている。そして、今から300年前でも絶滅した生物は4年に1種、今から100年前でも1年に1種だったと言われている。今回、取り上げたのは、こうした時代に人類が絶滅させてしまった動物たちだ。だから、個体は大きくても絶滅した種類は少ない。だけど、今から半世紀前の1970年ごろから、世界で絶滅する生物の数が急激に増加し始めた。100年前には1年で1種だったものが、約40年前の1975年には1年に1000種、1000倍にも急増してしまったのだ。そして、現在では、なんと1年に4万種以上もの生物が絶滅し続けている。もちろん、これは、小さな昆虫や植物などが大半で、大型の動物や鳥などは数種だけど、人類による環境破壊や海洋汚染、森林伐採や海の埋め立てが原因だ。だから、あたしは、日本で暮している1人の日本人のとして、地球で生きている1人の人類として、「沖縄の辺野古のちゅら海を餌場にしているジュゴンたちを第二のステラーカイギュウにしてしまっては絶対にいけない!」と叫び続けて行く今日この頃なのだ!
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